ブラジルからのお便り(8号、1998.8.1)

 多くの日本人が移民したことで知られている南米の国ブラジルでは、現地日本人会の方々が主催する将棋大会が定期的に開かれているそうです。ブラジル将棋連盟の内海会長からお便りを頂きましたので、様子をお伝えしましょう。(山田禎一)

 内海さんは今年75歳、大変お元気で、現地の日本人で組織されているブラジル将棋連盟を統括されています。全会員の名簿を改訂する仕事に取り組み、お忙しい毎日を過ごされているそうです。
 今年の全ブラジル王将戦(全伯将棋王将戦)はブラジルへの日本移民が始まって90周年目に当たる記念大会になりました。日本からも田辺一郎、大島映二の両六段が参加、大盤解説などを行い、盛り上がりました。それではその様子を内海さんからのお便りを引用しながら紹介します。

 日本将棋連盟派遣専門棋士田辺一郎六段、大島映二六段のお二人の來伯は、多年ブラジルの将棋愛好家が待ち望むところであった。飛行機は整備でなんと20時間もの遅れをみせ、5月1日午前1時40分クンビッカ空港に無事到着、スタートからつまずきが案じられた。
 出迎えは、内海と馬場康二、アルファインテル旅行社から今野雅行業務担当重役の三人で、深夜ではあったがすぐにスケジュールの調整や確認をして午前3時30分退去。両先生には、ハードなスケジュールをお願いすることになった。

 ブラジルにプロ棋士が訪れたのは久し振りで、現地の新聞でも報道されました。

ブラジル将棋連盟(内海博会長)は移民90周年の記念事業の一環として、国際交流基金に、普及と指導のため日本から専門棋士の派遣の申請を一年前から行ってきたが、このほど、日本将棋連盟(二上達也会長)から二人の棋士を派遣する、との朗報が届いた。専門棋士の来伯は、1990年の大山康晴十五世名人以来で8年振り。
 当地でのスケジュールは
◎4月30日 到着
◎5月1日  指導対局
◎2日=第26回王将戦いで解説指導。
 帰国する六日までの日程はブラジル将棋連盟で作成中だが、地方都市での指導対局なども考慮している。

 報道にあるように、現地での企画は内海さん達が中心となって作成されましたが、初っ端から飛行機が遅れたりして苦労の連続だったそうです。
ともかくも大島・田辺の両プロが無事サンパウロに到着。それからは内海さんの計画に沿って進んで行きました。

 1日の朝10時には懇親会にご出席いただいた。会場は吉川茨城県人会会長のご厚意で整備されており、大テーブルの正面に「歓迎 日本将棋連盟派遣 田辺一郎 大島映二六段両先生 ブラジル将棋連盟」と大書された幕が用意されていて、これを背にご着席いただく。進行は吉川連盟副会長がつとめられ、柄沢名誉会長から出席会員全員の紹介をお願いした。田辺先生からは、最近の日本将棋界の様子をお話しいただき、会員からはいろいろな質問や要望、珍問賢答があって時間が思わず過ぎてしまい、12時10分に午前の部が終了。午後3時から同じ会場で指導対局を予定して散会となった。
 昼食は、柄沢名誉会長の提案で両先生に日本食をと、ピニェイロスの八代へ。同行は柄沢、中田、桑原、内海の四名。ここでも話が弾み、なかでも中田さんの談話は笑いあり、熱あり、奇談ありで時を忘れ、3時の指導対局に遅刻する羽目になってしまった。

 両プロとも熱烈なブラジル式歓待を楽しまれたことでしょう。翌日は午前中市内観光で、午後からはまた指導対局となります。

 2日目の指導対局は、午後2時から研究会道場で行われた。前の日と同じの三面指しで大島先生が8局、田辺先生が7局の計15局をお願いした。大島先生が木曽四段に、田辺先生が青木六段に花を持たせ一同大満足であった。この日は午後1時過ぎから2時間余り停電があり、薄暗い盤を見つめながらの対戦であったが、4時過ぎ灯がともり熱戦をつづけた。対局のあと、両先生を囲んで和やかに質問や懇談を重ねてから、この日の歓迎会場ツバキ食堂へ向った。
 会場には、遠く1,000kmを飛行機で馳せ参じた高根五段が搾り立ての地酒ピンガを持参されるやら、クリチーバ支部の番匠、ロンドリーナ支部の杉本理事など合わせて25名が両先生を歓迎、懇談にいやが上にも花が咲き、みんな時の過ぎるのに気がつかない盛会となった。しかし、明日が大切な大会とあって10時前に惜しくも散会、明日を約して握手で別れる。

 第26回全伯将棋王将戦大会(主催・ブラジル将棋連盟、後援・ニッケイ新聞)が3日午前9時半から、リベルダーデ区の岩手県人会館で行われ、地元をはじめ、パラ州ベレン、ブラジリア、パラナ州、ミナス・ジェライス州などから126人が出場した。今大会は、日本将棋連盟から派遣された田辺一郎、大島二郎両六段が決勝戦の大盤解説を行い、また、専門棋士の來伯とあって、女性二人、非日系人二人なども参加するなど、彩りを添え、大会を盛り上げた。
 注目の決勝は、青木幹旺六段とミナスから遠征の高根富士雄五段の対決となり、序盤は高根五段が巧妙な差し回しで圧倒、解説の両六段も「旨い攻め方」と激賞したが、攻めを凌いだ青木六段が徐々にに盛り返して逆転し、王将位に就いた。これで昨年からの名人戦、最強者戦、老中棋戦を含め、史上初の四冠王となった。
結果は次の通り。
【王将戦】
◎ 優勝=青木六段(聖市)、二位=高根五段(ミナス)、三位=館山定雄四段(聖市)、四位=桑原パウロ五段(聖市)。
【三段戦】
◎優勝=畠山茂(聖市)
【二段戦】
◎ 優勝=上村徳生(聖市)
【初段・段外戦】
◎ 優勝=ジョマール・エゴロセ(マリンガ)
【親睦戦一組(王将戦予選敗退者)】
◎ 優勝=鍛冶谷日吉四段(モジダス・クルーゼス)
【親睦戦二組(三段までの予選敗退者)】
◎ 優勝=佐々木要三段(聖市)

 優勝者の中には現地の方らしい名前も見えますね。ブラジルの将棋ファンは日系人がほとんどなのですが、現地の方も若干はいるようです。さて、無事大会も終了しました。内海さんいかがでしたか?

 なにしろ12時間の時差のあるところから、午前1時過ぎに飛行機から降りられて、その日の10時から懇談会、指導将棋。翌日は、市内観光の後再度の指導対局、歓迎会と大変ハードなスケジュールをこなしていただいた訳である。にもかかわらず中盤の難所をうまく凌ぐ手筋や急所の捌きなど、指導に徹して下さり多くの教訓を残されたのである。お付き合いしていると、両先生の好みも分かってくる。リオデジャネイロの本場のサンバや美港の夜景などを満喫していただく為にも、もう一度観光本位で来ていただきたいと思っている。

 内海さん、ブラジルの皆さん、ご苦労様でした。」
  

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