20年目を迎えたヨーロッパ選手権戦(29号、2004.9.18)
8月26-29日の四日間、ドイツのミュンヘンの中心地から電車で20分の、イザール川のほとりのプラーにあるユースホステルで、第7回のブリッツトーナメント、第20回ヨーロッパ選手権、第7回のワールドオープン選手権が行われた。将棋を世界に広める会および(株)御蔵は第20回の大会なので、高級駒を賞品として提供することとなった。今回、賞品を届けるとともに大会に参加してきたので、その模様をレポートするとともに、ヨーロッパにおける普及について大会参加の前後に考えたことを書いてみたい。(寺尾学)
8分切れ負け
8月26日の夕方、シュバネック城という古城の建物を宿泊施設に転用したユースホステルに続々と参加者が集まる。8分切れ負けの「ブリッツ・トーナメント」に参加する面々だ。主催者から事前に各自対局用の時計を持ってくるように連絡がいっているので、デジタル時計は足りている。8月末になったとはいえ、まだまだミュンヘンの日暮れは遅いのだが、2局3局と切れ負け戦を夢中で指しているうちにいつしか外は真っ暗となり、時間も23時に近づいている。ブリッツ・トーナメントは元アマ名人で現在フランクフルトに赴任中の菊田裕司さんが優勝。筆者は昨年度のヨーロッパ選手権者の田代秀樹さんに敗れたが、対戦相手のポイントの関係で2位になった。
翌27日の朝からヨーロッパ選手権とワールドオープン。夜中に、大会直前にビザがおりたウクライナのチームがバスに乗って大挙してで到着。ロシアチャンピオンのセルゲイ・ベロフさんは残念ながらビザが降りずに大会をキャンセル。EC加盟国内の移動は自由だが、旧ソ連圏からの参加はまだまだハードルが高い。
11カ国53名が参加
ホスト国のドイツをはじめ、フランス、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、オランダ、オーストリア、ウクライナ、チェコ、日本の11カ国から53名がエントリーした。筆者は6年前にロンドンで開かれた大会に参加をしたことがあるが、そのときにくらべて、大学生など若い参加者が多かったのが特に印象に残った。スウェーデンだけでなく、フランス、ドイツでは、着実に将棋の普及が進んでいるように感じた。
ヨーロッパ選手権は、1年以上ヨーロッパに住んでいる参加者の上位32名による勝ち抜き戦方式。持ち時間50分、それを使い切ると一手40秒以内の秒読みにデジタル時計をセットする。勝ち抜き戦で負けても、同時にワールドオープンがマクマホン式9回戦で進んでいるので、選手は期間中将棋漬けの毎日となる。27日が夕方まで3局、28日が朝から夕食後までで4局、29日が2局の長丁場である。
一日目が終わった段階でヨーロッパ選手権の準決勝に残ったのは、菊田さん、田代さん、フランス在住の植村さんの日本人勢と、オーストリアのゲルト・シュニッダーさん。急戦調の矢倉戦で菊田さんがシュニッダーさんを制し、決勝進出、2年連続の優勝を狙った田代さんを決勝で破り、ヨーロッパ選手権者となった。
ワールドオープンの優勝者は、元学生名人で、アムステルダムに赴任中の瀬良司さん。一位から四位まで日本人勢が独占したが、五位にドイツのカール・バートリックさんがはいった。
扇子が残る理由は?
表彰式で気がついたことがひとつ。強い人だけではなく、ミドルクラス、初級のクラスからも表彰者が出るシステムになっていて、賞品は詰め将棋などの日本語棋書や棋士の揮毫入りの扇子から選べることになっているが、どういうわけか扇子が不人気で誰も手を伸ばさない。ヨーロッパは日本よりも涼しいから、というわけではないだろうが、詰め将棋の本が人気である。この点について、主催者のヨハン・ドレクスラーさんに聞いたところ、「将棋の本がまだまだ少ないので、皆、本のほうを選ぶのでしょう。詰め将棋や、次の一手の本ならば、手順を追えばよいので、日本語の本でもOKです。」とのこと。将棋を世界に広める会では、今まで、中国や韓国に将棋雑誌の付録などの詰め将棋や次の一手を提供してきたが、欧米にも同じように、詰め将棋や次の一手を送っていくことを考えたほうがよさそうだ。
ところで、今回かさばって大変だったが大手百円ショップのダイソーで販売されている盤と駒を10セット持っていって、各国の普及に尽力をしている方にサンプルとして渡してきた。皆、一様に日本でのストリートプライスが1ユーロを下回るのに驚き、初級者向けに最適だとの評価。フランスやイギリスの代表者は早速もっと買いたいとのこと。日本への小口送金を安く行う方法に詳しい方がいるとありがたいのだが。
shogi.de のホームページのウェブマスターで盤駒のオンライン販売もしているマーク・マリアンさんに期間中たいへんお世話になった。彼によれば「盤駒あわせ約26ユーロのセットが平均すると月に3−4セットはドイツで売れている」とのこと。
安い盤駒がヨーロッパに流れるようになれば、もっと将棋の普及にはずみがつくことは間違いのないところだ。
上の写真は、日本のアニメらんま1/2のキャラクターを使った駒を自作しているダニエル・テーベンスさん。彼はこのほか、漢字の駒に矢印で動きを付け足した駒などを自作しており、アニメの展示会などでランマ1/2の駒に興味をもった人に、本物の将棋を教えてしまう名人である。こういう楽しい方に会えるところも、ヨーロッパの大会に参加する魅力である。
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