機関誌「かけはし」発行50号、並びに発足15周年を迎えるにあたって(50号、2010年10月9日発行)
私どもの「将棋を世界に広める会」が活動を開始してから15年,NPO法人になってから10年経ちました。
15年前に、将棋を世界に広めようなどということは夢のような話でした。将棋は日本だけのもので、外国では、見たこともないし,従ってどんなものか知らない人がほとんどでした。
盤駒が手に入らない、現地の言葉で書いた将棋の本がない、指導する人がいない、というのが普及の三つの大きなネックでした。英語で書いた将棋の本が、丸善へ行っても3冊しかなかったのです。
又、将棋好きの人が世界のどこにいるのかもはっきりはわかりませんし、どれだけの国に広めればよいかも、判りませんでした。
世界にはチェスを始めとして中国象棋、その他将棋と類似のゲームが既にあります。それらに比べて、将棋がはるかに面白いか、少なくとも同じぐらいに面白い、と認められなければ、一生懸命に広めようとしても、出来るとは思われません。
こんな状況の時にわれわれの会は発足しました。(ISPS理事長 眞田尚裕)
それから15年、北京、上海、ロシア、スウェーデン、韓国、ウクライナ,フランス、モンゴルその他の国に将棋指導に行きました。北京、上海、韓国、ウクライナなどから、われわれの招いただけでも、何人かの人々が将棋のためにやって来ました。少しずつではありますが、外国で将棋が指されるようになってきたのです。
個人的には将棋の普及に海外へ行かれる人も居ました。特に将棋の総本山である将棋連盟は、断続的に棋士を外国に派遣し続けていますし「国際将棋大会」は将棋の国際普及に大きなインパクトを与えました。
そしてここ数年のインターネットの飛躍的発達が将棋の海外普及の方向を大きく変えました。今までは人が行って教える、又は人が来て教わるという以外、方法はほとんどありませんでした。ところがインターネットを通じて将棋を指すことが出来るようになったのです。極端な話,お互いの顔を見なくても将棋をさせる世の中になりました。ロシアでは1年に4,000局もインターネット将棋を指した青年が居ると聞きました。
従って世界の将棋人口は大幅に増加し質的にも変化しつつあります。今まで全く将棋のなかった国で将棋が指されるようになりました。また上海のように地道に普及を図っていたところでは、将棋人口は東京を超えるだろうと言われています。
地球上のどの国にでも将棋を指す人が居るようになるというのは、われわれの会の大きな目標です。とても考えられないようなことが、出来そうになってきました。ただその「深さ」イコール「強さ」と言う点では、今のところまだ日本が一番です。相撲界や囲碁の世界でも、日本は一番強いとは言えません。将棋でも世界中の中から日本より優れた人が出てくるかもしれません。がそれはまだ10年ぐらいかかるような気がします。
将棋の指導には大きく分けて2段階あると思います。将棋を憶えて少しできるようになって面白さを感じるようになるまで、とそれ以上になって将棋の奥深さが解るまで、との二つです。我々の会は前者を主に相手にしています。しかし今の調子で急速な「幅の広がり」が続くとすると、どうしても、会の人数をもう少し増やさなければならないかもしれません。それもコンピューターのよく解る人、語学の堪能な人などです。勿論今までのメンバーにもそういう人は沢山いますが、持った力を十分に出してはいません。現役で忙しいからでしょうし、ボランティアの会の限界かもしれません。我々の会は300人足らずの小さな会です。スポンサーを付けて必要なことには大きな金をだすようなことかできれは良いのですが。
将棋普及の三つのネックのうち、現地語で書いた初級の本は、すでに英語、中国語、フランス語、ロシア語、モンゴル語などで、出来ています。まだまだ充分ではありませんが、徐々にパンフレットを抱えて行かなくてもよくなりそうです。
今一番必要なのは駒と盤です。将棋に興味を持っても、外国では駒を簡単には買えません。今は普及用、又は百円均一の駒をまとめて私どもの会で供給しています。自分で作っているところもあります。これは安い駒を多量に生産して供給できるところがあれば、やがては解決するでしょうが、今のところ需要のほうが先行してしまっています。
三番目の指導者の問題は、じっとしていてもインターネットが解決してくれるかもしれません。外国へ長期に住み着いて教えようと言う人が増えれば普及の速度はもっと加速します。
いずれにしても世界中の国が相手となれば2つや3つの国が相手のときとは違います。
夢は大きく、やることは確実に一歩ずつ、と言うのが当初からの会のモットーです。今、将棋の国際普及のスピードが我々の力に追いつき追い越そうとしています。この時に当たって何をどうすればよいか、15周年を機にもう一度じっくりと考えてみようと思っています。
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