« 10周年記念事業‐ウクライナ将棋親善交流の旅と記念将棋大会(31号,2月26日発行) | メイン | ゲームサイトThaiBG.comに将棋が加わる(32号,6月18日発行) »

リフネで105人のトーナメント開催(32号,6月18日発行)

ウクライナ将棋交流の旅速報
 5月24日に成田を出発してから6月1日に帰国する日程で、ウクライナ将棋交流の旅に行ってきた。締め切りの関係で、参加者からのレポートなどは次号で特集の予定だが、おおよそのところを速報したい。(寺尾学

 参加者は、理事の眞田、鈴木、池谷、宇都宮、松本、寺尾の6人と、会員の伊藤さん、入江さん、そして、囲碁将棋チャンネルの番組「将棋まるごと90分」を担当している将棋ジャーナリストの山田史生さんが一般から参加され、総勢9人となった。直前になって仕事の関係などで何人かのキャンセルが入り、若手(といっても40代だが)の参加者がわたしひとりになってしまったのが少し残念ではあった。
 日程は、24日にアエロフロートでモスクワに入り1泊、翌日ウクライナの首都キエフに飛び25−26日に同地のホテルに宿泊し名所観光。27日にマイクロバスでキエフから330キロ西のリフネまで移動し、その夜に、以前鈴木・池谷理事が訪れ将棋が盛んになりつつある少年宮でブリッツ(早指しで8分切れ負け)の国際トーナメントに参加。翌28、29日に持ち時間45分秒読み30秒の第三回ウクライナ国際トーナメントに参加し、また、トーナメントに参加しない初心者レベルの子供のために、多面指しで指導対局を行うというもの。30日からはマイクロバスでキエフへとって返して、モスクワに飛び1泊、31日は赤の広場などを少しだけ観光して夜にモスクワを経ち成田へ、というもの。ウクライナへの直行便がなくモスクワに泊まらなければいけないため移動時間が多く、現地の将棋ファンとの交流ができるのは28−29日の実質2日間なので、密度の濃い交流をしなければいけないなと機内で考えていた。
 モスクワ空港に着いた。現地ガイドで日本語の達者なワロージャさんが笑顔で出迎えてくれる。最初に感じたことは「暑い」だった。なんと、30度を超えているという。「日本より涼しいと思っていたのに」「半袖なんか持ってきていないよ」という言葉が次々に参加者からこぼれる。空港から市内中心地を結ぶ幹線道路の渋滞が以前にもましてひどい。あまりの暑さで、オーバーヒートした車が何台も立ち往生していたせいだとわかったときは驚いた。
 25日。キエフ空港へ到着。やはり30度。ここでも日本語がしゃべれる現地ガイドの出迎えを受ける。ウクライナの人口は4800万人。穀倉地帯として有名なのは学校の社会科で習って知っていたが、国土の南側で鉄鉱石が出るらしく、最近の世界的な資源価格高騰のためか、年間の経済成長率が30%を超えているという説明にはびっくり。マイクロバスで市内の中心部へ。四車線の広い道はすいており、快適だった。

ホテルで早速対局
 その夜、ホテルルーシュで夕食中に、ウクライナチャンピオンになったコロミエッツさん、キエフの少年宮で将棋を教えているチシェンコさん、熱心な将棋ファンのシェルビナさんが登場。旧知の鈴木・池谷理事の紹介でなごやかに歓談した。シェルビナさんは手製の将棋盤を持ち込んでいて、食事後ホテルのバーで早速私と一局指すことに。隣で談笑していた男女数人のグループが興味深げにのぞいてくる。そのうちの一人の美人に英語で「これは日本のチェスで将棋といいます」と説明したら指してみたいとのことだったので、帰国してからインターネット上の情報サイトを連絡すると約束した。聞けば、スロベニアから出張してきた一行だというので、彼女をスロベニア人将棋ファンの第一号にできないものかと思っている。バーやカフェなど、人目に付くところで盤駒を持ち出して対局をすることは、将棋を見たことがないような土地では、将棋普及のきっかけになることがある。
 翌朝8時半にホテルを出発。マイクロバスででリフネまで330キロの道のりを行く。車窓の風景は牧草地帯が左右に広がり、地平線まで見渡せる。広い国だ。キエフから100キロくらいまでの道はメンテナンスが行き届いていたが、その先はかなり車が揺れて体にはきつかった。牧草地帯が続いていた12時半ごろ、突如として家が増え始め、街が現れる。リフネに着いたのだ。ホテルでは、少年宮の指導者の一人、童顔で大柄のイワンさんが我々を待っていてくれた。

大教室が会場

 ホテルで昼食の後、イワンさんの案内で車で3分くらい走り少年宮へ。歩いても15分位の距離であろう。少年宮は鉄筋コンクリートの学校のような建物で、2階の大教室が、トーナメントと指導対局の会場にあてられていて、盤駒を置いた机がきれいに並べられている。歩測したところ、部屋の広さは縦が25メートル、横15メートルくらいで、前側に高い壇があるつくりになっている。
 壇の上では、トーナメントの主催者の一人、イエロシキンさんがパソコンと格闘している。彼が参加者のエントリー受付、手合いの組み合わせなど一手に引き受けているようだ。
 キエフのコロミエッツさんやロシアからの面々も既に会場に来ている。ベラルーシからの参加者はブリッツには参加せず翌日にやってくるとのこと。鈴木理事や池谷理事が我々一行を紹介している間にも、子供たちにせがまれて非公式な対局があちこちの机で始まっている。
 その間、眞田理事長と私は、少年宮の長のペルブシェフスカさんと通訳を交えて別室で会談。将棋の指導者のシェブチェク先生も同席。将棋を世界に広める会のこれまでのサポートへ感謝が表され、リフネの少年宮がヨーロッパの将棋の中心になりたいという将来展望を拝聴。今後もわれわれとして協力していくことを述べた。
Dh000104
          ペルプシェフスカさんと眞田理事長

 大教室へ戻ると、33人が参加するブリッツトーナメント六回戦の開始時刻である。平均年齢が60歳を超えている日本人グループにとって、子供や若者相手に8分切れ負けという条件は相当にきつく、優勝した宇都宮理事(五段)と三位の私(四段)以外は、日本人以外からも黒星をつけられた。二位には、前年のウクライナチャンピオンのコロミエッツさんがはいった。
 翌日はいよいよ国際トーナメント、28日、29日とも午前中1局、午後2局のマクマホン式6回戦。1回戦が始まる前に、隣国のベラルーシから参加する7人が到着。「七人の侍」というあだ名がつけられ、その由来を聞いて嬉しそうであった。今年の将棋国際フォーラムのときに来日する、ロシア代表のザパラさん、ウクライナ代表のシェブチュクさん、ベラルーシ代表のコチトスキーさんが揃い踏みの豪華な大会となった。
 われわれ日本人グループはトーナメントに全員が参加すると、日本人が上位に固まってしまって、マクマホン式なので折角の国際大会で日本人同士の対局が増えてしまうのを防ぐために、山田さん、伊藤さん、池谷理事の3人が2日間とも指導対局多面指しに専念、また、入江さん、鈴木理事も一日ずつトーナメントに参加し、残りの日は指導対局多面指しに回るように工夫した。それでも6回戦のうち、宇都宮理事や私は2番日本人同士で手合いがついてしまったのが残念。

宇都宮理事が優勝

 105人が参加したヨーロッパではおそらく史上最大の参加人数のトーナメントになったが、私は苦しい対局が多くて、ほとんどの試合で秒読みまで時間を使ったので、他の方の終盤を見て回ることができなかった。トーナメントの合間の時間には、私も指導対局のコーナーに座って、多くの子供たちと多面指しを行った。「数の攻め」で端を破ることを知らない子供たちとの6枚落ちでは、なるべくこちらから駒の等価交換を仕掛けて相手の持ち駒を増やしてあげ、将棋の楽しさのひとつである持ち駒を使う機会を多くしてあげるように心がけたが、寄せ方がまだまだわからない子供が多く、なかなかうまく負けてあげることができなかった。ただ、負けても泣き出すような子供は一人もいなく、それで将棋が嫌いになりそうな子はいなかったのはよかったと思う。
 6回戦も無事に終わり、表彰式。優勝はこちらも宇都宮理事、2位が私、3位がウクライナのコロミエッツさん、4位は日本語が上手なロシアのオストリャコフさん、5位がベラルーシのコチトスキーさんとなった。終わってみれば、上位5位に参加4カ国の選手がまんべんなくはいり、めでたしめでたしの結果である。事前の打ち合わせは無かったが、日本から参加した9人は特別ゲストとして賞品の即席プレゼンターを相務めた。子供たちには参加賞として日本語の賞状が渡された。皆とても喜んでいた。
Dh000085
          手製の盤駒ー日本製よりかなり薄い

 次号で詳しく触れたいが、今回の参加者といろいろと情報交換した結果、ウクライナ、ロシア、ベラルーシでの将棋普及の将来は明るいと感じた。特に、ウクライナ、ベラルーシでは、普及団体自身が自分たちで簡易な盤駒を作っており、普及の障害のひとつである盤駒の入手の問題がクリアされているのが大きい。とはいえ、本物の盤駒が欲しくなるのは将棋ファンとしての自然な気持ちなのだろう。今回、有償分・無償分を合わせ、マグネット駒付きの大盤が、キエフの少年宮とコロミエッツさん、そしてリフネの少年宮に1セットずつ。トーナメントの日本人以外の上位者賞品用として(株)御蔵提供の高級駒を3セット、リフネの少年宮用にビニール盤とプラスチック駒のセットを18セット、ベラルーシ協会用に100円ショップの駒20セット、ビニール盤とプラスチック駒のセットを2セット、高級駒1セット、プラスチック駒2セット、合計49セットを9人で手分けしをして持ち込んだのは喜ばれた。これらが両国の普及に有効に使われていくと確信している。

サイトナビゲーション

最近のトラックバック

Powered by Six Apart

Google Analytics

  • トラッキングコード