上海少年の将棋〜辛抱力をつけるには〜(12号、2000.4.24)
二回目の中国訪問は、中国最大の商業都市上海である。一回目の北京が京都なら、上海は東京といってもいいくらい、経済的に発展した大きな街である。ここで日本将棋学校が設立されたため、日本人の将棋好きが立ち寄る機会が増えたという。
我々も二日間、こどもたちと将棋を指し、層の厚さや強さを感じ、許さんはじめ将棋普及者たちの努力に感心した。(湯川博士)
実戦的格言講座
私も一人の強豪少年と対局したが、そのとき感じたことをまとめておきたい。特にこれから日本の大会で、レベルの高い少年と戦うことを念頭に、アドバイスしたい。
相手は、桜山中学の帳台強クン。少年将棋大会の無差別級で優勝した強豪らしい。
私も一人の強豪少年と対局したが、そのとき感じたことをまとめておきたい。特にこれから日本の大会で、レベルの高い少年と戦うことを念頭に、アドバイスしたい。
相手は、桜山中学の帳台強クン。少年将棋大会の無差別級で優勝した強豪らしい。
第1図。どのくらいの棋力があるのか試すために、右四間飛車を採った。ところが正確に応じられ、私の桂損。なおも▲5八桂と自陣に打って、歩を取り返そうという局面。
彼は右四間飛車を知らなかったようだが、序盤感覚は素晴らしく、ここまでは満点だ。 2図。私の駒損がひどく、金の丸損だ。後手陣はもうひと押しでつぶれる。だが、将棋の怖さは中終盤なのだ。
シャンチー(中国象棋)やチェスは、駒得すればほとんど勝ちが確定するゲームだ。外国人が日本将棋で戸惑うのは、駒得してても逆転負けを喰うことだろう。反対に、不利でも逆転勝ちできる魅力もある。
私は△3二銀と持ち駒を投入し、取りあえず自陣のほころびを繕い、様子を見た。
2図からの指し手
▲2一銀?△7九飛 ▲3二銀不成△同玉
▲4八金引△2五桂 ▲2六銀 △9九竜
▲2五銀?!△同歩 ▲6一角 △4三銀
(3図)
▲2一銀の意図は△同銀に▲4一角(王手金取り)だが、先に駒を捨てる手はダメだ。『打った駒が盤上に残り、攻めの拠点になる』 攻め方が望ましい。同じように▲2五銀も相手に金駒(かなごま・金銀のこと)を渡すと粘りの駒になるからよくない。終盤では、『金駒を渡さない攻めを考える』べきだ。桂や角は粘りの効かない駒なので桂・角を主力の攻めを考える。
2図では▲6四歩と打ちたいが、△5五桂とハネられていけない。また、▲6一角△4二金▲6三馬も見えるが、あと(二枚角の活用)がパッとしない。ここでは、王手竜取りラインを利用した攻めが効きそうだ。
2図から、▲5六角△9九竜▲3五桂(王手)△2二玉▲2三銀△同銀▲同桂成△同玉▲6三馬(桂を入手)という筋が見える。
△6三同金なら▲3五桂△3二玉▲4三金△4一玉▲5二銀△3一玉▲3三金で必死。
さて実戦は3図。後手陣は駒損も回復し自陣も補強し、盛り返してきた。でも、手番は先手であるから、まだ有利を保っている。 ところが張クン、ここで暴走しちゃった。
3図から、▲6三馬??△同金▲3一金?△同玉▲4三角成△3二銀
▲2三桂?△2二玉▲5五桂△4一香(4図)
▲6三馬〜▲3一金というような捨て駒は詰むか必死以外は、絶対してはならない。
『駒を捨てる攻めは、詰みが見えたとき』と覚える。攻め方がいくつもあるときは、『駒を取りながら攻める』方を採る。
では3図ではどうしたらいいか。先手陣も2枚飛車に狙われているので、ゆっくりしてはいられない。なるべく早い攻めが必要だ。敵の守りの要は5二金。これを取れば2枚の角も生きる。いい手が浮かばないときは、『大駒が活きるためには何をすべきか』を考えれば、次の一手が浮かぶ。
ここで▲6四桂を考えると、△5五桂とハネられても2図のときとは違い、味方の4七金に当たらないので、成立する。
3図から▲6四桂!△5五桂▲5二桂成△4七香▲5三成桂△4八香成(A図)と攻め合いになるが、以下▲4三角成△2二玉▲3三馬△同玉▲5一馬で先手の一手勝ちだ。実戦では馬を切って金を捨てたため、敵に粘る余地を与えてしまった。
4図となっては、後手の受けが成功し、先手の攻めは切れている。途中の▲2三桂などあまり悪くなり、カッとしたのだろうが、
『ミスを出した後もまだチャンスはある』
わけで、▲5五桂と馬につなぐなどすれば敵もミスを出したかもしれない。
序盤中盤は申し分ないが、中終盤で相手が粘ったり、ミスで悪くしたときの対応力がまだないように感じた。
駒落ちで力をつける
この欠点を補うにはどうしたらいいか。これは、自分より強い人との経験不足からきていることゆえ、もっとギリギリの将棋を指し、耐えることや粘り腰を鍛えないといけない。それには駒落ちがいい。張クンより強い人は中国では少ないだろうが、四、五段の人(許さんや中本洋さん)に角落ちや飛車落ちで指してもらう。そうすれば、上手も必死で指してくれるから粘る技を吸収できるし、しかもそれを突破する力もつく。
上手と平手ばかり指しては、粘りの技がなかなか身につかないだろう。
初段くらいまでは平手だけでもいいが、強くなったら駒落ちの下手と、上手も経験すれば日本将棋独特の、押したり引いたり辛抱したりの呼吸が身につく。そうなれば、日本の大会でももっと上位に行くだろう。
皆さん基本的な力があるのだから、あとは将棋術ともいうべき、辛抱力やしぶとさ粘りなどを身につければ、大いに期待が持てる。
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