モスクワオープン(20号、2002.6.30)
今年10月の国際フォーラム参加(ロシア代表)をかけての戦いだ。
1月5〜6日の2日間で7回戦を消化。
優勝のセルゲイさんは、7連勝という素晴らしい内容だ。この棋譜の一部は、NHK将棋講座5月号に掲載した。またこの原稿のロシア語訳にしたものを、モスクワの世話役へ贈った。今後も海外のビッグゲームには、このようなサービスをしていきたい。(棋譜表記は、外国人が少しでも読めるように、算用数字のみにしてみた)(湯川博士)
力強く、粘り強いロシアの将棋
▲ユーリー スピレフ
△セルゲイ べロフ (5回戦)
▲26歩 △34歩 ▲76歩 △44歩
▲48銀 △32銀 ▲56歩 △42飛
▲68玉 △62玉 ▲78玉 △72銀
▲58金右△71玉 ▲36歩 △52金左
▲96歩 △94歩 ▲25歩 △33角
▲16歩 △14歩 ▲68銀 △82玉
▲57銀左△56歩 ▲68金直△43銀
▲46歩 △12香 ▲37銀 △22飛
▲26銀 △24歩 ▲同 歩 △同 飛
▲25歩 △23飛 ▲35歩 △45歩
▲33角成△同 桂 ▲34歩 △同 銀
▲32角 △22飛 ▲54角成△42飛
▲35歩?(第1図)
[研究室・棒銀はさばきが目標]
▲35歩?
(1)先手は棒銀をいかにさばくかがテーマ。3筋は棒銀や飛車をさばく筋なので、ここへ歩を打っては、味方の駒の動きを邪魔することになる。
(2)いったん交換した歩は、むやみに打ってはいけない。もっと有効な活用が将来出てくる可能性があるので、なるべく歩を打たない方向で手を読む。チェスで言う、オープンファイルにしておくのが最善だ。
☆ここでは、▲55馬か▲38飛のように、後手3筋の銀・桂を狙う。
次には、▲35銀と出て、棒銀のさばきを実現させる。
第1図から、
△43銀 ▲55馬 △44銀 ▲66馬
△46歩 ▲34歩 △47歩成▲33歩成
△同 銀 ▲46歩 △58と ▲同 金
△44銀 ▲24歩?!△22歩 ▲37銀!
△36歩?▲同 銀 △43飛 ▲45歩?
(第2図)
[研究室・駒の活用と歩の使い方]
▲24歩?! ▲38飛と、早く飛車の活用をはかりたい。
▲37銀! 棒銀がさばけなかったので出直し。銀の活用の好手。
△36歩? 不要な歩のたたき。1歩損した上、先手の銀を働かした。
▲45歩?
(1)後手の飛車・銀はさばきが難しい状態なのに、先手は▲45歩と突いて働かせてしまった。お手伝い。
(2)ここは後手飛車・銀に触らず、▲37桂と遊び駒の活用を図るところ。
☆具体的には▲45歩では、▲23歩成△同歩と2筋を軽くしておき、次に▲37桂が好手順になる。右桂がさばけてからは▲45歩の狙いもあるし、のちには、▲95歩△同歩▲93歩の端攻撃も可能だ。
第2図から、
△45同銀▲同 銀 △同 飛 ▲46歩
△35飛 ▲37歩 △55歩?▲23歩成
△43角 ▲44銀?(第3図)
[研究室・攻撃手順の考え方]
△55歩? ここは△38歩が有効な手段だ。次に△39歩成〜△29と〜△37飛成を狙う。
▲44銀?
(1)次に△25飛(飛車交換)が予想され、▲44銀は空振りになる。後手からは、△65金〜△56歩の攻撃が見えているので、両方の攻撃に耐える指し方を考える。
(2)▲44銀では、▲12とで香車を取っておく手が、△25飛を防ぐ手にもなるし、と金の活用にもなる。▲12と以下、△65金▲44銀△66金▲同銀△25飛▲26香で、先手勝てる。
第3図から、
△25飛 ▲26桂 △54角 ▲17桂?
△23飛 ▲55馬?△76角 ▲77歩?
△69銀 ▲同 玉 △87角成▲78銀?
△88馬 ▲68銀 △57歩?(第4図)
[研究室・中央攻撃と早逃げ]
▲17桂?
(1)▲55歩(角取り)とすれば、終わっていた。以下、△39銀(飛車取り)の反撃には、▲54歩△28銀成▲53歩成と進み、後手陣の中央にと金が出来ては、先手の勝ちである。中央に手があるときは、端より有効だ。
(2)▲17桂とすることによって、後手は幸便にと金を取りながら△23飛と引けた。これもお手伝いになった。
▲55馬? ▲55歩△21角▲25歩として、次に▲34桂〜▲24歩を狙ってゆけば、先手の駒が全部生きる展開になった。窮屈な28飛車と26桂が働ける形を考える。
▲77歩? 不必要な歩打ち。持ち駒を使うかどうかの局面では、まず使わない方から考える。この局面は明らかに打つ必要がない。
ここでは▲33銀成が正着。遊んでいる銀を使い、後手の飛車を取りにいく1石2鳥の手となる。
▲78銀? 持ち駒を使わず、▲59
玉と早逃げ。終盤玉を守る場合、(1)自分の城を補強する(2)味方のいるほうへ逃げる(3)敵陣へ入る・・・などがあるが、この局面では(4)味方のいるほうへ逃げるが正解。
本譜は、自分の城を補強する方法を選んだが、補強した部分(銀)が攻撃目標になって受けが利かなくなった。▲59玉と逃げることで、後手の攻撃から身をかわすことができる。
[研究室・大駒の活用と持ち駒の使い時]
△57歩?
(1)無駄な歩打ち。先手は[歩切れ]という重大なピンチなので、貴重な歩を与えてはいけない。
(2)ここでは△38金!(A図)▲同飛△26飛がいい手。
金を捨てても飛車を活用させたほうがいい。大駒(飛・角)の活用は非常に大事で、活用できる場合は一時的な駒損はかまわない。この場合先手は歩切れで飛成りを受けるのがたいへん。△26飛のあと▲28金?と受ければ一転して8筋から△86桂と打てば先手受けに窮する。
23飛が窮屈な形で活躍できず、取られるかもしれない。その飛車が出世できるチャンスには、思い切って駒を使ってあげたい。
☆チェスにはない[持ち駒]の使い方は難しいが、お金の使い方と似ている。ふだんはなるべく節約したいが、ここいちばんという急所では思い切って使いたい。A図の局面はまさにここ一番の使い方だ。
第4図から、
▲57同金△42金 ▲97香 △87金
▲79銀 △78金 ▲同 銀 △38歩
▲79金 △98馬 ▲25歩 △39歩成
▲34桂 △43金 ▲24歩 △44金
▲同 馬 △43飛!▲同 馬 △同 馬
▲22桂成△16馬!▲25桂 △49馬
▲59金?△38馬 ▲同 飛 △同 と
▲68玉 △48銀 ▲同 金 △同 と
▲69金 △88銀!▲29飛?△38飛
▲27角 △58金 ▲同金引 △79角
(投了図)まで134手で後手の勝ち。
[研究室・大駒の活用とかわしの技術]
△43飛は馬の筋を生かした好手、見事な大駒活用だ。
△16馬は、大駒のダイナミックな活用。
▲59金? ここへ金を使っても目標になるだけ。ここでは、持ち駒を使わず、▲87銀と玉を広くしたい。
△88銀! 左右挟撃の見本のような好手。
▲29飛? 受けに飛車を打つことは非常に危険。目標にされ、相手に取られやすいからだ。ここでは、▲66歩と玉の脱出口を開けるくらいか。
[全体の印象]
ロシアのチェスプレーヤーに、ニムゾビッチがいる。彼は受けに強い形を創ったことで有名だが、この将棋も随所に受けの強い精神を感じる。
盤上の駒が取られぬような手が指されている(△12香や▲97香など)が反面、持ち駒を浪費する局面がよく見られる。
受ける=持ち駒を使うのではなく、玉が体をかわす術も覚えてほしい。
攻める=持ち駒を打つのではなく、盤上の駒で間に合わせる術もある。
全体に力強く粘り強い長所もあるが、今後は重い攻めと受けから、軽い攻めと受けの感覚を身につけてほしい。
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