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日本・スウェーデン将棋交流会(22号、2002.12.21)

 9/6〜10にスウェーデンに行って来た。日本とスウェーデンの将棋交流、および10月に東京で開催される国際将棋トーナメント戦に向けての選手強化が目的で、 今回は「将棋を世界に広める会」から私が派遣された。(佐藤啓)

 【9月6日】 私はヨーロッパは初めて。デンマークのコペンハーゲンで飛行機を乗り換え、スウェーデン上空に達すると眼下には見たこともない景色が広がっている。一面森と湖の美しい世界。今回の旅はいろいろ新しい発見がありそうに思えた。スウェーデンのアーランダ国際空港に着くと、ロビーでピーター金子さんが出迎えてくれた。思っていたよりだいぶ若い。聞くと22歳の大学生とのこと。金子さんはお父さんが日本人、お母さんがスウェーデン人で、以前日本にも住んだことがあり日本語がかなり話せる。滞在中はずっとガイドを務めてくれ大助かりだった。現地の人は普段はスウェーデン語を話すが、国民の95%は英語が話せるそうだ。
 空港からアーランダエクスプレスに20分ほど乗ると、T―セントラーレンという大きな駅に着いた。ここが首都ストックホルムの中心街らしい。そこから地下鉄で2駅目のスラッセンに私の泊まる「HOTELL ANNO 1647」があった。築355年の古いホテル。スウェーデンは戦争の被害を受けていないため、街には古い建物が多い。フロントでチェックインしたが、中が迷路のようでよくわからず、金子さんに部屋まで案内してもらった。
 荷物を置き、2人で夕食をとりに外へ出る。10分ほど歩くと、翌日の集合場所になっているレストランがありそこで食事をとった。スウェーデンの主食はジャガイモらしく、どのメニューにもついている。私はステーキを食べたが、肉の回りはジャガイモだらけだった。食事を済ませると8時過ぎ。空はもう薄暗かった。白夜が見られるかと期待していたがストックホルムでは無理らしい。スウェーデン北部の方では見られるところもあるそうだが。ホテルの前で金子さんと別れこの日は早めに寝た。
 【9月7日】 昼ごろ昨日のレストランに着くと、既に何人か将棋関係者らしい人が集まっていた。 皆ちらちらこちらを見ている。金子さんがいないのがちょっと不安だ。思いきって中の1人に「支部長のダネラッドさんですか」と聞いてみた。
「いいえ。あなたはサトウさん?」
「はい」
「スウェーデン支部の○○○です」
 これでひと安心。しばらくするとダネラッドさんもやって来た。
「ようこそいらっしゃいました」
「初めまして」
 中に入って食事をとっているところへ金子さんも到着。これで会話もスムーズに運んだ。
 食事を済ませ会場のチェスクラブまで10分ほど歩く。表に「65」 とあるのは1965年にできたクラブなのだろうか。中に入りダネルドさんが私を皆に紹介してくれた。総勢12〜13名くらい。思っていたよりちょっと少ない。スウェーデンの将棋人口は100人程度で、ストックホルムだけだと20人くらいだそうだ。
 そしていよいよ多面指し開始。手合いはオール平手で私が先手。これはチェスの習慣なのだろう。対戦者の棋力は初級者から有段者までさまざま。スウェーデンチーム大将の金子さんは力戦振飛車、ダネルド支部長はいま日本でも流行の「ゴキゲン中飛車」を得意にしている。中には自分で熱 心に棋譜を採る人もいたが、日本とは表記方法がかなり違う。どちらかというとチェスのそれに近い。
 1時間半ほどで全てのゲームが終わり私の全勝。「もう1局指しませんか」と言うと、数人が再度チャレンジしてきた。2度目は緊張感もほぐれかなり余裕をもって指せたが、今度は大将の金子さんに見事に負かされた。終わった瞬間回りから拍手が起こる。金子さんは日本に住んでいたとき、大宮の将棋道場で三段を認定されたそうだ。
 2回り済み、皆で記念写真を撮ったところでこの日はお開き。まだ夕食には早い時間だったので金子さんとチェスや将棋を指しているうちに辺りは真っ暗。お腹も空いていなかったので真っ直ぐホテルに帰って寝た。
 【9月8日】 この日は昼ごろ直接クラブに集合。しかしなぜか閉まっている。ダネラッド支部長が席主に電話すると「1時間ほど遅れる」とのこと。それまで皆でランチをとることにした。ダネラッドさんが私に「マクドナルドと中華どちらがいいですか」と聞く。スウェーデンまで来てマックではつまらないので中華をご馳走になる。日本のそれとは少し味が違うがおいしかった。
 小1時間ほどしてクラブに戻る。この日は2面指しで記録係がつくことになった。 相手は金子さんとチェスのIM(インター ナショナルマスター)ハートマンさん。ハートマンさんは前日はいなかったのでこの日が初手合いだ。持ち時間は1時間で切れると1手30秒。こんなに長い持ち時間で指すのは初めてだが、 これもヨーロッパスタイルなのだろう。
 金子さんは昨日と同じく力戦振飛車。しかし序盤はお世辞にも上手いとは言えない。飛車を振る前に銀を3二〜4三〜5四と出てくるが、私が▲5五歩と銀取りに突くとすぐ▽4三銀と元の場所に引いてしまうのだ。「単なる手損で何の意味もないから止めなさい」と昨日から何度も注意したが一向に改めてくれない。こちらも諦め「もう少し強くなればいずれわかるさ」とそれ以上は言わないことにした。
 一方のハートマンさんはこちらの四間飛車に対し居飛車急戦を仕掛けてきた。よく定跡を勉強しているのがわかる。 それでは2局のうち金子さんとの将棋をご紹介しよう。

22_sweden_1.JPG
 第1図はその中盤戦。
ここでは先手のほうが少し模様がいいが、図の▽4五歩が後手の駒に活を入れる好手。これで角と銀が いっぺんに働いてきた。金子さんはこの辺りから徐々に力を発揮してくる。局面は進んで第2図。

22_sweden_2.JPG
 この▽8六桂の王手が激痛だった。この手で慌てて▽5七桂成と銀を取ると、▲8五飛(▲同玉なら▽7五金で詰み)でこれは先手の楽勝になってしまう。抜かりなく▲8六桂を利かすところに金子さんの強さを感じる。そして迎えたクライマックスが第3図。

22_sweden_3.JPG
 いま金子さんが▽7九銀と詰めろをかけたところ。これが俗手の好手で厳しかった。 普通こういう手は良い手になりにくいが、 この場合は先手の持ち駒に桂馬しかないため非常に有効だった。本譜は以下▲7八桂▽8八金▲9七玉▽7八金と進み金子さんが確実に寄せ切った。
 もう1局のハートマンさんとの将棋は、 こちらの無造作な序盤作戦を的確にとがめられ中盤以降押されっ放し。終盤になっても差は一向に縮まらなかったが、秒読みになったとたんハートマンさんの着手が乱れ辛うじて逆転勝ちという情けない内容だった。感想戦でもハートマンさんに「どうしてあなたは序盤で自分が不利になるような指し方をするのか」と言われ、返答に窮してしまった。
 それにしてもハートマンさんは強い。チェスのIMだけあって読みが実にしっかりしている。終盤をもう少し勉強すれば近い将来ヨーロッパチャンピオンも夢ではないだろう。どうして代表チームのメンバーに入っていないのか不思議だったが、予選で金子さんに負けてしまったそうだ。
 対局終了後、大盤でこの日の2局を解説しお開きかと思ったら、会場の1人から「王将戦第3局(羽生王将VS佐藤九段)の棋譜を持っているので解説してほしいとリクエストがあった。これにはちょっとしびれましたね。まあやりましたけど。 全てが終わった後、スウェーデン支部の方たちから温かい拍手をいただきちょっと嬉しかった。外へ出るとまだ明るい。ダネラッド支部長は翌日仕事なので、これからバスでヨーテボリに帰るという。(7時間かかるらしい) 私たちは10月に東京での再会を約束して別れた。
 【あとがき】 この交流会を終えた後、正直言ってスウェーデンチームは10月の本大会ではかなり苦戦するのではないかと思っていた。ところが結果は見後3位に入賞。準決勝の中国戦も相手を土俵際まで追い込む健闘ぶりだった。 大会終了後ダネラッドさんに「サトウさんのおかげです」と言われたときは「ああ、スウェーデンに行って良かった」と心底思った。

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