竜王戦ソウル対局観戦ツアーに参加して(30号,2004.12.18発行)
第17期竜王戦第1局は、10月19日、20日の両日ソウル新羅(シイラ)ホテルで対局が行なわれ、前夜祭が前日(18日)の18時から、同じホテルで開催された。
読売旅行社の観戦ツアーがあるという話を耳にして、単独で参加した。
韓国には職場の旅行と、将棋を世界に広める会の日韓交流会に参加したことがあり、今回が3回目。(<b>細根雄治</b>)
過去の旅行はグループが出来ており、目的が一緒だったから、団体行動が基本だった。今回は、将棋観戦だけがスケジュールされた3泊4日。
16名のツアーといっても、韓国での行動は参加者の自由だから、普通の団体旅行とは趣を異にしている。私は旅行社からの案内にあったオプショナルツアーには申し込みをしないで、余暇時間は勝手に街をぶらつくことにしていた。
到着した夜は前夜祭に参加した。会場に一番乗りした一行は、会場の見学から始め、顔見知りの棋士の方々が見えると近づいて挨拶をしながらツーショットでの写真をねだったりした。どんどん会場にも人が集まり、時間が来て前夜祭は始まった。
開会挨拶の中で、主催新聞社の文化部長が、このソウル対局は昨年辺りから韓国でも将棋熱が盛んになってきた気運が感じられるので、この地で開催することにしたという主旨の話があった。
その言葉を聞いた時私は、昨年の将棋を世界に広める会が行なった日韓将棋・チャンギ交流会で蒔いた種が、早くも実ったものと思った。
昨年の将棋を世界に広める会の交流会に参加した時の私の感想は、日本と韓国はこんなに近い国どうしなのにお互いの将棋事情を何も判っていないというものだった。
日本の将棋指しは、韓国の李(い)6段から通訳つきで、チャンギーという韓国将棋を、はじめての物語を聞くように教えてもらった。
韓国のチャンギーが強いという人達は、日本将棋連盟の所司六段からの講義を通訳つきで、不思議そうに聞いていた。
そのようにどちらの国の将棋好きも、相手国の将棋の駒の種類、並べ方、動き方をまるで知らなかった。その折韓国ではこれから小学校の課外授業で、日本将棋を取り上げていくという話を聞いた。
指導者の養成から始めるということで、どのくらいの期間で芽が出るだろうかと前途の多難さを思ったものだった。
前夜祭のセレモニーであいさつされた韓国将棋協会の朴副会長は、その時にお見かけして日本語の達者な方だという印象で記憶にあった。
セレモニーの開会式には間に合わなかったが、いま将棋を課外授業に取り入れている、小学校の校長先生と紹介された曺茂一・丁英子のお二人には、今年の8月日本でお会いした。
韓国の小学校の生徒の中で、将棋が強くなった子供と日本の小学生との対抗試合が、8月に東京で行われた。覚えたての韓国の子供達には手合いの違う相手で可哀相であったが、近い将来には本当の代表選手同士の戦いが出来ることになるものと思った。その時裏方として手伝いに出向いて、終わってからの会食でご一緒して顔なじみだったので、声をかけたら、お二人も私を覚えていてくれた。
前もって打ち合わせをしていなかったので、知人がふいに出会っただけという顔合わせで終わってしまった。
振り返って考えれば、折角の機会だったから、韓国の将棋協会の人とも交流する計画をしていけば良かったと反省している。
一日目の対局開始時のセレモニーは、会場に入って観た。
第1日目から指し手はどんどん進んで、午前中に27手が記録された。大盤解説で深浦八段から、森内竜王が急戦矢倉に持ち込んで、局面の主導権を握ろうと意図した戦い方だという解説があった。
対局2日目も会場に入って観た。
国会中継の関係で予定されていたテレビ中継はなくなってしまったそうだが、大盤解説はやってくれた。
電波に乗る時とは一味違った柔らかい話もあって、面白かった。
2時から大盤解説をここでやりますということだったので、外出を早めに切り上げて会場に戻ったら観客は私一人だけということで、大盤解説はなし。
私の処遇に困った記者の方が、良かったら控え室を覗いていきませんかと言ってくれたので、時間を持て余さずに済んだ。
また部外者では覗けない部屋を観察できたことも良い経験になった。
竜王戦は若き渡辺明六段が勝って、棋界に新風を吹き込んだ戦いを観戦できた。このことは将来に亘って、自身で語り継いでいくことになりそうです。
特筆すべきは、将棋を世界に広める会の活動が、今回のソウル対局実現の引き金になったこと。それを強調しておきたい。
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