北京少年宮訪問記(38号、2006年12月16日発行)
日中で学生同士の将棋交流ができたらいいな
みなさんはじめまして。今年から入会致しました、東京大学将棋部の山内一馬と申します。今回は「将棋を世界に広める会」の多大なるご協力をいただきまして、北京の少年宮を訪問して参りました。その様子、また今後の展望についてこちらで簡単にご報告させていただけたらと思います。(山内一馬)
私は国際的な種々の活動に興味があり、毎年どこかしら海外へ行く機会を設けて自分なりに見聞を広めるようにしています。ただの観光旅行ではない、自分なりの「その時、その場所でしかできないこと」を実践するために考えた選択肢の一つが「将棋」でした。
昨年、卒論調査を主目的にパリを訪れた際にはフレデリック・ポティエさんやエリック・シェイモルさんを日本将棋連盟の方からご紹介頂き、交流して参りました。その後このISPSの存在を知り、理事の方々の協力を得て今回は北京を訪問したという訳です。
久しぶりの北京訪問
ここでISPSの北京との交流の軌跡を軽く振り返ってみましょう。かけはし創刊号を紐解けば所司七段が「私が将棋の海外交流をしたのは3年前(1993年)の4月からです。その時は北京で行われた中国象棋(シャンチー)の世界選手権に出場し、その後ハルピンに行き北京に戻りと3週間近く交流をしました。」と書いていらっしゃいます。その後も94、95年と所司七段は北京を訪れているらしく、96年にはISPSとの交流も始まり、特に01年、02年には東京−北京小学生将棋交流大会が実現しています。しかしそれ以来はとんとご無沙汰のようでした。
さて、訪問当日。日本語のわかる劉東さんにホテルまで迎えに来て頂き、案内されました。もう十年以上こちらの少年宮で教えていらっしゃるという李民生先生にご挨拶して、早速子どもたちとの対局が始まります。そそくさととにかく早指しな子、私が一周してくるまでじっと待っている子、振る舞いは皆それぞれですが、一様に二枚落ちの定跡を身に付けており結構な強さの子ばかりでした。そのままお昼休憩までノンストップ、ざっと20人くらいの子たちと指したでしょうか、あっという間で、気付いた頃には半分くらいの子が帰ってしまっていました。
たくさんの子どもたちと指すわけですから必然的に一人ひとりと対面する時間は短くなります。挨拶や終わった後の握手などは欠かしませんでしたが、やはりもう少し、じっくりと子どもたちとコミュニケーションを取る時間があったら嬉しかったなというのが本音です。例えば、将棋に関するちょっとした講義の時間を設けていただくことなど提案してみたらよかったかもしれません。子どもたち一人ひとりと目を合わせて、呼吸を感じ、語りかける時間があれば、さらに距離感が縮まるのではないかと思います。
とはいえ、午後も続くこのハードワークもがんばった甲斐あってか総じて皆さんに満足していただけたようでよかったです。(いや、8面指し、初めてでしたが意外と腰に負担がかかりますね・・。)なにより、異国の地にて30人以上の子どもたちと将棋を指したという達成感は忘れられない思い出です。
最後には李先生からシャンチーを教えて頂いたりして、言葉が通じないながらにとても楽しいひとときを過ごさせていただきました。
生の衝撃はやはり違う
以前から海外普及に興味を持たれていた方には当たり前なことかもしれないのですが、私は日本の将棋という文化が中国やフランスなど海外にも広まっているということにとてもとても驚きました。手つきからして同じということに新鮮な感覚を覚えてしまいます。なんだか、これまで自分の認識していた「将棋」というイメージが、大きく覆されるような体験でした。将棋の愛好者が世界にいるということは頭ではわかっていても、やはり実際に会うことで受ける衝撃というものがあるのだな、と実感しました。
そしてやはり、将棋は言葉を介さずとも交流できてしまうところがいいですね。本来なら互いの顔も名前も知らないまま一生を終えるはずだった相手とコミュニケーションできてしまう。将棋をやっていてよかったな、なんて思ってしまいます。
今後の展望について少し書いてみましょう。理事の寺尾さんに教えていただき、僕も確認したのですが、外務省のホームページに安倍総理の訪中の成果として以下のようなことが書かれています。
(6)あらゆるレベルでの交流・対話の促進
(ロ)明2007年(日中国交正常化35周年)に開催される日中文化・スポーツ交流年を通じ、国民交流を飛躍的に拡大すること、また、高校生交流を長期的に実施することで一致。
(参照:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/cn_kr_06/china_gaiyo.html)
国の流れとして日中の交流促進が提案されています。この波にうまく乗っていきたいものですね。具体的には、これまでフォーカスされることの少なかった、日中間の高校生または大学生同士の将棋交流を行っていけたらという話がISPS内でも出ています。
大学生同士でしたら自分たちで企画からマネジメントを行うこともできるかもしれませんし、組織として継続的に活動を行っていくこともできるかもしれません。どちらか一方の国の学生が一方の国を訪れての交流や、インターネットを介しての交流(将棋サイトでの対局、チャットを用いての会話など)もできることと思います。
その際に留意する点としては、やはり「海外の人とも将棋をしてみたい!」と思う学生をいかに増やしていくかですね。海外交流の醍醐味をどのように広く伝えていくか。そして、そうした海外普及に興味のある学生を発掘し、巻き込んでいくか。
近代将棋でも掲載
学生の将棋イベントといえば年にいくつもある大会がメインですが、大会で腕を競い合うことだけでなく、交流を主眼に置いた企画を創設し、参加者を募ることは国内の将棋普及にも益することなのではと思っています。時間もありエネルギーをもてあましている大学生たちがたくさん関与してくれるようになれば嬉しいですね。
北京のこの訪問の話は、実は近代将棋12月号にも書かせていただきました。内容はほとんど重ならなうにしてありますので、もし興味のある方はぜひご覧になってみてください。自分なりに、より多くの人に向けて、海外の将棋愛好者の人たちと交流することのやりがいを綴ったつもりです。少しずつでも、国境を越えての将棋交流の気運が高まることを期待しつつ、筆を置くことにいたします。
最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。まだまだ若輩者ですが、みなさま今度とも宜しくお願い申し上げます。
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