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特別寄稿 将棋を広めるための環境について(46号、2009年2月28日発行)

1.将棋の普及 46hyoshi_2

 将棋の競技人口は、チェス、中国象棋シャンチーに次いで世界第三位です。以下、韓国・朝鮮のチャンギ、タイのマックルックと続き、最近はこれを世界五大 将棋などとも呼ばれるようになってきました。チェスは、世界中の様々な民族の間で知られ好まれています。しかし中国象棋は、世界中で愛好家がいるものの実 態は華僑であり、華僑以外の愛好家は1割に満たないといった状況です。将棋についても、現状では程度の差はあっても、同じようなことが言えるのではないで しょうか。(岡野伸氏)

中国、日本に限らず、チェス以外の将棋は、出身国民以外への愛好家の広がりは限定的です。日本の将棋ではありえませんが、シャトランジやチャトルといったチェスに近い現地の将棋は、チェスと比べて駒の機能が弱く、現地の将棋が指されなくなりチェスに取って代わられるといった現象が世界各地でみられます。自分では、逆にこれら未知の世界の将棋を、調べて書いて指すということに面白さを感じて15年になりました。日本には、遊戯史学会などの研究グループや、中将棋、シャンチー、チャンギを実践する団体、また、所司和晴7段主催の世界の将棋大会が、年2回程度行われています。また、欧米には、こうしたグループや大会もあり、インターネット上の対局も行われているそうです。

 将棋を世界に普及させるには、言葉と駒を表す文字という壁があり、道具は世界中で販売されているわけではないという様々な障害があります。これらの問題を解決することは簡単ではありません。中国象棋は世界中で親しまれていますが、華僑以外の人々への広がりは限定的です。普及の第一歩としては現地のチェス団体などを通じて、少しずつ紹介していく方法が考えられますが、この点は今迄に相当のことが行われ、成果があがっていると感じています。先進国では将棋を会得した人は、技術を求めますし、類似の将棋も知りたいと思う人も現れます。これについては、中将棋が一番適しているのではないでしょうか。私にとっても今は、将棋と言えば中将棋です。対局に2時間程度と長時間になりますが、日本の将棋では中将棋に一番親しみを感じています。

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 私は、2006年、結成されたドイツのミュンヘンで、ドイツ人による
「ドイツ中将棋連盟」
http://www.chushogi.de/

461 に関心を持ち、結成して間もない現地を訪ねました。彼らは、元々将棋の情報を収集して実践、更に中将棋に関心を持ち、会を立ち上げています。中将棋だけでなく、大将棋から泰将棋、徂徠の広象棋まで資料を集めて実践もしていました。大型の将棋は、英国人貿易商のジョージ・ホッジスさんが、以前日本でつくった樹脂駒と、会を立ち上げたギュンター・メンシングさんお手製のベニア盤を使用しています。2006年5月19日と翌日に現地を訪ね、対局や情報交換など交流が実現しました。

 ベルリンの森鴎外記念館の一室で、将棋を指しているとの情報を得て2006年5月22日に見学しました。館内には、数人が将棋を指し、日本人の方も一人おられました。ドイツ人の館長さんも将棋を指す方で、中々の腕前でした。

 先進国でない地域は、ある程度以上の収入のある一部の人を除いて、将棋を覚えて強くなることが、お金になるかならないかについての関心が高いようです。遊びよりも生活に重点が置かれ、相撲などにみられるように、来日して強くなって賞金を稼ぐ、このような図式があれば普及は飛躍的に伸びると思われます。現地には、将棋ではなく仲間内ですぐにできるチェスや現地の将棋などのゲームがあり、他のゲームを欲していないというのが見えてきます。新しいビジネスを行う場合、学校で子供に教えて使わせるという方法があります。将棋もこれにあてはめることができれば、多少の効果はでるでしょう。しかし、現地の受け入れ態勢や、道具をはじめ経費がかかりすぎてしまいます。また、東南アジアでは、戦時中日本語の押し付けなどの歴史があり、現実的ではありません。

2.他の将棋との関連性について

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<シャトランジ(インド)(伝統的な彫り駒) - 岡野氏蔵>

将棋・チェスの起源はインドにあります。かつては、1913年にHJRマレーの著した「チェスの歴史」(オックスフォード)を根拠として、サイコロを使用した四人制チャトランガが起源といわれてきました。しかし、最近の研究では二人制チャトランガが先であり、四人制は二人制から派生した将棋であることがわかってきています。詳しくは、増川宏一「チェス」(法政大学出版局)をご覧ください。さて、増川宏一「将棋Ⅰ」(法政大学出版局)によると、チャトランガのチャルツは四つを意味します。その基本となるものは、古代インドの軍制である象軍、騎兵隊、戦車隊、歩兵隊から成っており四つの軍隊となっています。これに王、将が加わると、世界の将棋の基本的な形態である王、将、象、馬、戦車、兵が登場することになります。駒の名称については地域によって変化します。王はどの将棋にもあります。将は、司令官、高官、女王、士、金将など伝播した先で変化します。象も根、銀将、ビショップ、ラクダなど。戦車は、香車、舟、車、城、牛車など。馬と兵は世界共通です。この六種類の駒に飛車、角行が加わったものが日本の将棋であり、取った駒を使ったり、歩兵以外の駒も昇格するなどの固有のルールを紹介するとおおよそ理解してもらえるようです。

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<かつて将棋の起源とされたインドの4人制チャトランガ

(レプリカ) - 岡野氏蔵>

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<シャトランジ(インド)(イスラムスタイルの駒) - 岡野氏蔵>

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