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国際郵便将棋のすすめ(創刊号、1996.4.1)

 イギリス人が組織を作った
 昔から西洋で盛んに行なわれている西洋将棋、いわゆるチェスは既に世界各国に普及され、アメリカ対ロシアというような世界選手権が争われている事は、皆様既にご承知かと思います。あの有名なデンマークの童話作家、アンデルセンも、チェスで世界選手権を取ったことがあります。(鈴木良尚

 一方、わが国で発達した日本の将棋は、ここ20〜30年の間に急激に世界に知られはじめ、人数はまだ少ないものの、いまや外国人同士の間でヨーロッパ選手権などが争われるようにまでなっています。将棋を指す外国人の選手は、もともとチェスの選手だった人が比較的多く、日本の将棋はチェスよりも数倍おもしろいと全員が口を揃えます。それは終盤では使える駒が殆んどなくなるチェスに比 べ、持ち駒を駆使して目の覚めるような攻防戦がいつまでも続く日本の将棋の方が魅力的だ、ということではないかと思います。
 ところで西洋では国際郵便チェスも古くから盛んに行なわれています。日本でも郵便将棋と言って、遠く離れたところにいる人同士、郵便で一手ずつ指す将棋を楽しんでいる人がいる事と同じです。ただチェスの方はもっと国際的で、アメリカ人対フランス人、ドイツ人対スペイン人という組み合わせが可能となり、楽しみが一回り大きいといえるでしょう。
さあ、そこで将棋の方で国際郵便将棋を初めて大規模に展開した人がイギリスにいます。面白いことにそれは日本人ではありませんでした。その人の名前はフィリップ・ホランド(Philip Holland)。愛称フィルで元銀行マンです。名前から見て先祖がオランダ系の人なのかも知れません。現在ロンドン郊外に住んでおり、将棋の強さはまだ級位者ですが人や組織を束ねる事に優れ、一時期イギリス将棋連盟(BSF,British Shogi Federation)の会長をしていたこともあります。従って、イギリス将棋連盟の機関紙「SHOTEN」(焦点)には今でも国際郵便将棋の運営状況が、毎号必ずと言ってよいくらい掲載されています。
 フィルが友人と一緒に創設した組織はPostal Shogi League(PSL)と言い、国際(International)という字は入っていません。その理由は、イギリス人同士で将棋の技術を磨き研究しながら楽しもう、という発想があった事も確かでしょうが、もう一つ、これは日本人には少しわかりにくい事かも知れませんが、ヨーロッパには幾つもの国に分かれてはいるものの、各国間の往来は全く自由かつ容易であり、フランス人でもドイツ人でも勝手にイギリスに来て将棋を指し日帰りで帰る事もでき、ことさら国際などという名前をつけて気張らなくても、国際的である事が当たり前の状態なのです。但しこれはヨーロッパの中の話でして、距離的に遠いアメリカや日本の事を考えるときは自然に“International”という言葉が入ります。

PSLは何をしてくれる? 
 PSLでは、日本人の場合1年分の会費2ポンド(約300円)を支払ってメンバーになると、一年に2回のPSLレポートが送られて来ます。そこには全メンバーの試合状況や最近半年間の試合結果、さらにメンバー同士の通信欄などがあり、楽しく読むことが出来ます。また、新しく国際郵便将棋をはじめたい人には希望(国籍、将棋の強さ)を聞いてメンバーの中から適当な人を斡旋してもらえます。勿論、強さには差のある場合が多いのでその場合は一定の駒落ちが定められていますが、本人同士でこれは自由に変えてもいい事になっています。この辺はレーティングの考え方が採用されており、細かい計算は省略しますが、対局結果を集積して自分の持ち点が上がったり下がったりするように出来ています。
 1995年12月時点での総会員数は67名、このうち48名が外国人で、やはり本家のイギリス人が最も多くなっています。日本人は、国内在住者以外の殆どは、現地日本人会が熱心に活動しているタイの在住者です。外国人の有段者はかってヨーロッパ選手権を取った事もあるイギリスのラムさん、オランダのグリムベルゲンさんを含めて10名ほど居ります。

8カ国団体対抗戦の開催
 1993年春より8カ国各5人の選手による国別団体対抗戦が開催されました。参加国はイギリス、アメリカ、フランス、イタリア、ドイツ、オランダ、タイ、日本の8カ国で、イギリスと日本は2チームずつ合計10チームです。総当りにすると1選手当たりの試合数が多くなり過ぎ、また日本の2チーム同士で対戦することは本意では無いので、出来るだけ強いチーム同士、あるいは弱いチーム同士、6チームだけと対戦するよう調整する事になりました。その方が駒落ちの試合も少なくなります。
 チームを編成してみて驚いた事には、オランダチームが最もレーティング点数が高く、元アマチュア王将である谷川さんを擁する東日本チームを上回っていた事でした。オランダチームは粒揃いです。しかし、試合の方は駒落ち方式で力のバランスをとりますので、勝負は何ともいえません。また出来るだけ多くの人に参加してもらうため、5人の正選手の試合数を減らして補欠の選手にも活躍してもらう事とし、アメリカチームは9名、日本チームは14名(2チーム)でスタートしています。
 試合期間は3年間を予定していましたが、何分初めての企画でもあり、対抗戦開催に際してPSLに加入した選手が居て国際郵便将棋に慣れていなかったりして、開始より2年以上経過した1995年12月現在でも勝負のついた試合数と、中盤から終盤にかけて大熱戦を繰り広げている試合数がほぼ同数という現状です。あと1年で終わらない試合は判定で勝負を決める事になるでしょう。判定は日本将棋連盟の室岡六段に引き受けて頂けることになっています。
 1995年12月現在ドイツチームがトップを走っています。得点数とは(勝数)×2+(引分け+残り試合数)×1の合計です。この方法では残り試合数を1/2の確率で勝つものとして計算することになるので、東日本チームは勝率6割2分5厘(10勝6敗)でイギリス東チームの勝率6割6分6厘(6勝3敗)より低くても点数ではイギリス東チームを上回ります。こういう考え方もちょっと日本と違って面白いとは思いませんか?

訪問の楽しみ
 国際郵便将棋はエアメールで行ないますので相手に届くのに5日位は掛かります。従って、国内の郵便将棋の2倍くらいの時間が掛かりますが、相手が外国人だけにペンパルのような文通の楽しみもあります。海外出張したときの土曜・日曜に相手を訪問すれば大歓迎される事も必定です。
興味のある方や質問のある方は「将棋を世界に広める会」又は直接「国際郵便将棋連盟日本支部」(〒236横浜市金沢区釜利谷4−41−8鈴木良尚)へどうぞ。
Psl_wld

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