東京・北京将棋交流大会!(16号、2001.7.18)
将棋を世界に広める会は、これまでに中国における将棋普及のためにいろいろな支援を行ってきた。将棋を愛する中国の少年を日本に招待する企画もここ2年ほど実施してきたが、今年は7月31日に北京から中国の小学生8人を招いて第1回東京・北京小学生将棋交流大会を行うことを企画した。企画のコンセプトは「かけはし」の前号でも真田理事長が紹介しているとおりであるが、「第1回」と銘打ってあるように、姉妹都市である東京都と北京市の小学生が「定期的に」親善友好を図ることを目的としている。(山田彰)
来年のことを言うと鬼が笑うが、日中国交回復30周年に当る2002年には日本の小学生が北京を訪れて交流大会を行うことが目標である。そのためもあり、大会の主催は、将棋を世界に広める会と北京崇文区少年宮の二団体となっている。さらに、外務省、東京都、NHK、日本将棋連盟、囲碁将棋チャンネル(サテライトTV)、北京市対外友好協会、中国棋院の後援を頂いた。
せっかくの交流大会であるので、東京の小学生の代表をしっかりとした形で選ばなければならない。ということで、交流大会の出場選手を決定する予選会を開催することにした。大会開催に当っては、インターネットを使っての告知や将棋道場等への協力依頼により、腕自慢の小学生の参加を募集し、32名の応募を受け付けた。
6月23日、梅雨の合間。どんよりした空模様だったが、飯田橋のセントラル・プラザ10階の会場には、受付時刻の12時半を待ちきれずに子供たちが続々と集まってきた。
東京ボランティア・市民活動センター会議室を利用した会場には、将棋盤とチェス・クロックが並べられている。囲碁将棋チャンネル寄贈の看板も掲げられた。
予選会場に集まったのは31名の小学生。出場を希望した小学生のうち1名だけが欠場となったが、まずは順調な集まりだ。このうち、女の子は2名。
31名から8名の交流大会出場者を、限られた時間の中で、できるだけ公平に選ぶために、予選会では敗者復活有りのトーナメント形式を採用した。簡単にルールを紹介すると3連勝すれば予選を勝ち抜けし、交流大会に出場できる。途中で1敗しても、敗者復活戦に回って勝ち進めば、通常4勝1敗で予選勝ち抜き。要するに、2敗するとそこで失格という仕組みだ。
会場に集まった子供たちは午後1時の開会を待てずに、パチパチと練習対局を始めている。親御さんがついてきているところが多いが、お父さん、お母さんは、静かに座ってちょっと手持ち無沙汰だ。
1時になり、真田理事長より大会の趣旨を説明する挨拶が行われ、当日の審判長である轟理事よりルールの説明があった。1回戦の対局の持ち時間は10分、切れたら1手30秒だが、子供たちがチェス・クロックを上手に使えるかどうか、ちょっと心配だ。
ルールの説明も終わり、一斉に対局開始!たちまち、高らかに駒音が響きだした。
集まってきた子供たちの棋力はばらばらのようだが、みんな駒を持つ手つきは大変よい。テレビドラマ「月下の棋士」の出演者もこれくらいの手つきはして欲しかったものだ。
ただ、チェス・クロックはやはり使い慣れていない子供が多かったのか、持ち時間10分を使うどころか、対局開始後3分ぐらいで勝負がついてしまったところもかなりあった。子供は大体早指しなのが普通であるが、10分もしないうちに半数以上が終局という様子だ。
1回戦注目の一番は、抽選のいたずらで女の子同士の対戦となった山口さんと伊藤さんの対戦。この2人は、時間の使い方も慣れているようだし、受けるべき時には手を溜めて受けに回る技術もあるようで、熱戦が展開されたが、序盤のリードを保った山口さんが落ち着いた指し回しで勝利。筆者としてはせっかくの2人だけの女の子なのでどちらも勝ち抜いてほしいと思わず応援してしまう。
勝った子供は本戦2回戦へ、負けた子供は敗者復活戦に回る。本戦2回戦で注目したのは杉本君と井出君の対局。井出君の四間飛車穴熊に対し、杉本君は2000年型トーチカ囲い(8九玉、8八銀、7九金、7八金、6八銀と固める)にがっちりと組み上げる。飛車先の歩を角で交換した杉本君に対し、井出君は2二飛と回り、飛車角交換の大立ち回りとなった。この時点での形勢判断は難しいところだったが、飛車側の桂をうまく捌いた杉本君が一気に攻めきった。
勝ち抜いていく子供はみんな有段の実力者と見受けられ、級位者の子供たちではちょっと歯が立たない。早々と2敗してしまう子供たちが出てくるのはやむを得ないが、また実力をつけてやってきてほしい。
子供たちの指し振りは思っていたよりずっと早く、午後2時半ころには、まず本戦組から勝ち抜き者が出た。勝ち抜き第一号は、先ほど紹介した千駄ヶ谷小4年の山口恵梨子さん。
決定戦となった本戦3回戦は、やはり4年生の宇内君との対局。山口さんに誤算があったのか、宇内君に一方的に馬を成りこまれた上、大駒の捌きを抑えられて、宇内君の必勝形に見えた。ところが、ちょっと筆者が目を離したうちに、宇内君は受けるより一直線の攻め合いに出て、勇み足の寄せになったようで、玉の遠い山口さんが大逆転勝ちを収めた。終局後の山口さんの第一声は「ああ、良かったア。」本人も劣勢を認識していただけに大逆転での予選通過がよほどうれしかったようだ。一方の宇内君は、寸前で逃した代表の座に悔しさを隠しきれない様子だった。
勝ち抜き第1号の山口さんにインタビューを試みる。山口さんは、盤面を真剣ににらんでいるとちょっと怖いけど、笑うととてもかわいい『メガネの美少女』だ。将棋は1年生のころから四段のお父さんに習った。
将棋はどんなところが面白いの、との質問に対して「駒を取っていくと自分の宝物が増えて行くような感じがして面白い。」との返事。その答えは、とてもよく分かる。
将棋の腕前は三段で前回の小学生名人戦本戦にも出場したけれど、1回戦で負けましたと話してくれた。中国の小学生と将棋を指すのもとても楽しみにしているそうだ。
お父さんにもインタビュー。「プロにさせたいかどうかは、本人次第。自分を超えて、自分に勝ってくれるようになれば嬉しいです。以前は毎日のように将棋を指していたけれど、最近は親子で指すのは週に1回くらいです。」
− どうして対局の回数が減ったのですか?
「以前は、子供はすごい早指しで、一局10分くらいで終わったのですが、最近はじっくり考えるようになって一局1時間くらいかかるようになったのです。そうするとこちらのほうもなかなか時間がなくて。」
− 強くなって、良く考えるようになったわけですね。
「日中小学生大会で、中国の友達ができるといいなと思います。」
敗者復活戦組からも勝ち抜き者が出た。こちらも第1号は女の子の伊藤沙恵さん。まだ2年生だが、将棋連盟の道場では二段になったところで、研修会にも月2回通っているとのことだ。将棋を始めたのは、お兄さんに教わって去年の夏からということなので、1年足らずで二段の小学2年生とは将来が頼しみだ。
− 将棋の面白いところは?
「駒が戦うところが面白い。好きな戦法は居飛車舟囲いで、好きな棋士は屋敷さん。将来はプロになりたいです。」
多摩川小4年の杉本君も勝ち抜いた。決勝の3回戦も玉を堅く囲い、巧妙な捌きで快勝。お父さんと一緒に話を聞いてみる。「5歳の時に始めて今はハマコーボーの道場で三段です。得意なのはトーチカ囲い。
− そうだね、2回戦を見て、わかったよ。
「お父さんにも習ったけど、今は僕のほうが強いです。大きくなったらプロになりたいです。」
お父さんは、学生の頃将棋を指していて今は二段だそうだが、いろいろな将棋ソフトを持っていて、杉本君はそれで研究しているという。「プロの道もいいけど、大変厳しいですからね。子供の気持ちが続けば、と思いますが。」勝ち抜いた後の会場で親子は楽しそうに将棋を指していた。
続々と勝ち抜き者が決まる。石橋君・5年生は連盟道場で三段、毎日のように道場に通っているということだ。
太田君・5年生は、5才のころお父さんに習って将棋を始めて、今は三、四段クラス。御徒町将棋センターで週に3、4回指しているという。好きな棋士は羽生五冠王。やはり大きくなったらプロになりたいそうだ。
最後に残った対局は、高艸君(4年)と土屋君(5年)の対決だ。子供たちの対局は猛スピードで進んでいたので、棋譜を取る余裕はなかったが、最後の対局をほんの少し紹介しよう。
飛車・角が良く動く序盤から、図の場面では龍が成りこんだ先手の優勢だが、飛車成りを後手の高艸君はどう受けるか。
△8三歩▲8五飛△2九龍▲3五飛
△3二歩▲6五角△8二銀▲4三角成
△4ニ香 ▲6五馬△1八龍▲3八歩
△7ニ玉 ▲2ニ歩△4三桂▲3七飛
△2ニ銀(以下略)
△8三歩は、▲同飛成なら△8二香で龍を殺すことを見せる、落ち着いた一着。
先手で飛車を追った後、悠々と桂馬を取って後手は優勢をはっきりさせた。▲2ニ歩など必死の手作りだが、後手は落ち着いて先手の攻め手を消し、その後も秒読みに慌てず落ち着いて押し切った。
高艸君も連盟の道場で三段として指しており、研修会ではE1クラスに所属している。2年生の秋に、お母さんから駒の動かし方を習ったということだ。
すべての対局が終わり、8人の勝ち抜き者が決まった。ただ、栗尾君(6年)が7月末の交流大会にはどうやら出られないということで、敗者復活戦の決定戦で敗れた3勝者の4人がじゃんけんをして、勝った有村君が交流大会出場権を得た。じゃんけんに勝った有村君は、「やったー」と両手を上げて大喜びだ。
勝ち抜き者は次の通り。
☆3連勝
山口恵梨子(4年)、杉本和陽(4年)、太田和希(5年)、栗尾軍馬(6年、交流大会出場辞退)
☆敗者復活勝ち抜き
伊藤沙恵(2年)、石橋峻士(5年)、丹下主一(5年)、高艸賢(4年)、
☆敗者復活成績優秀者=3勝者
有村章宏(5年、交流大会出場)、土屋義孝(5年)、宇内駿(4年)、小浦吉登(6年)
じゃんけんで負けてしまった、土屋君、宇内君、小浦君も補欠として交流大会に来てもらうようにしてもらった。交流大会にはプロの棋士の方も来られるので、大会そのものには出られなくても指導対局などを指してもらえるというわけである。
勝ち抜き者には、真田理事長より交流大会参加認定証を授与し、みんなで記念写真を取って、予選会は無事終了した。
今回の予選会にはISPSの理事を始め大勢の会員がボランティアとして会の運営を手伝った。また、7月の交流大会のために会員その他から寄付を頂いており、この場で感謝の意を表したい。
勝ち抜いた小学生は、いずれも三段クラスの強豪で、7月の交流大会では中国の小学生と、楽しく、堂々と腕を競ってくれるものと期待している。
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