ローチェ氏対6冠3面指し(22号、2002.12.21)
10月20日、国際将棋フォーラムの翌日です。
詰将棋とチェスプロブレムで高名な、京都大学教授若島正氏が会長を務める、チェス将棋交流協会による公開対局がNECの後援で行なわれました。フォーラムに出席していた各国の選手もこの日は見学に訪れる予定です。(轟聰)
午前の部は、GMローチェの20面指しです。参加者は、中井女流名人、東公平氏、関則可氏。そして女流チェスチャンピオンである竹本尚子氏と暁星小学校の生徒たちです。
ローチェGMのほとんどの指し手は一睨み、大長考する場面でも10秒程度と極めて軽快な進行で、次々に投了の意思表示であるキング(王)を倒す動作と握手が行なわれていきます。
最後まで頑張った竹本氏がキングを倒すと手を差し出すローチェGMの笑顔からは、それまでの怒ったような表情がすっかり消えていました。昼食休憩を取った後はいよいよメィンイヴェント、羽生善治3冠、森内俊之名人そして佐藤康光2冠という、将棋祭りでもめったに見られないほどの豪華な顔ぶれの3面指しです。
序盤は立ちっ放しで少考も見せないローチェGM、負けじと指し手の早い羽生3冠、じっくりと時間をかけて指す森内名人と佐藤2冠です。色白の森内名人の顔一面がみるみるうちに桜色に変わっていきます。
チェス序盤戦法大百科事典では過去の棋譜150万局を500の戦法に分類しています。日本将棋連盟が保有する棋譜が7万局、将棋クラブ24が出版した棋譜が24万局ですから、その差はとてつもなく大きなものがあります。
それによると羽生戦の戦法はB33でSicilian defense、森内戦の戦法はE97でKing's Indian, 5.Nf3、佐藤戦の戦法はE59でNimzo Indianだそうです。
いよいよ中盤になるとさすがのローチェGMも椅子に座り1分を越すような長考を始めました。一番奥の席で身をよじり頭をかきむしり、視線をあわただしく変えてあらゆる変化を読みきろうとする羽生3冠は、自分の指し手が決まると中央の森内名人の局面に目を向けています。
桜色の顔で盤面に集中する森内名人、まったくのポーカーフェースで身じろぎもしない佐藤2冠、3者3様の集中には公開対局とは思えない勝負師の姿を見ることができます。
佐藤2冠が早い時期にキングを倒し、ローチェGMが森内名人の前で大長考に入ったときです。突然ローチェGMの右足が大きく揺れだしました。10秒も揺すった後は今度は左足、そして最後にはなんと背中です。これがかの有名なローチェ揺すりでした。
羽生3冠の局面が6枚対6枚にまで減ってから、3列目に座る私の目にもようやく局面がわかるようになりました。チェスの立体駒のおかげです。
ルーク(飛車)2枚のローチェGM、ルークとビショップ(角)の羽生3冠、勝負はローチェGMがルーク交換に成功してルーク対ビショップの対抗に変わったときには終わっていたようです。
局面の進行の遅い森内名人も羽生3冠の局面に目を向けています。
森内名人の持ち時間が切迫しているのでこちらははらはらしています。
羽生3冠は粘りに出ましたがローチェGMのキングは自ら羽生3冠のキングを寄せに行きます。
ポーン(歩)の交換にも成功したローチェGMのポーンは羽生3冠のキングを縛っています。
粘ればまだ数十手は続くけれどこのままでは羽生3冠も時間がなくなると思ったときに意外な手が出ました。なんと自らローチェGMの好手が出るような投げ場を作ったのです。ローチェGMは躊躇わずに詰めろビショップ取り、にっこりとキングを倒す羽生3冠でした。
最後まで残った森内名人と数手を交わした後にローチェ氏がドロー(引き分け)を提案したようです。にっこりとそれを受ける森内名人の朱はもうさめて色白な顔に戻っていました。
最後にチェスの強豪でISPSの理事でもあるジャック・ピノーさんから簡単な総評をいただきました。
羽生3冠のゲームは引き分けになるはずだったと思いますが、羽生さんの見落とした一手が残念でした。
森内名人のゲームは森内さんはよく頑張りましたが、最後の局面は先手のローチェさんが少し有利です。
佐藤2冠のゲームは定跡のミスですぐ苦しい状態になりました。
佐藤さんはしばらくチェスを指していないのでちょっとチャレンジはきつかったようです。
なお、棋譜は次のアドレスで入手できます。
http://campaign.biglobe.ne.jp/chess-shogi/live/lautier.htm
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