チェコでの第21回ヨーロッパ将棋選手権(33号,9月17日発行)
ドイツのフライブルグでの将棋合宿を7月の10日に終え、その場で知合った棋友の車でシュトットガルトまで乗せてもらい、それからは鉄道を東進、旧東ドイツのニュルンベルグ、チェコに入ってからはビールの名産地ピルゼン、世界一美しい街並みと称されるプラハに立ち寄り、ヨーロッパ選手権の行われるパルデュビツェに14日の午後に入った。(かけはし取材班)
今年でヨーロッパ選手権は21回目を数えるが、旧東側がホスト国となる大会は初めて。当会も、ロシア、ウクライナとの将棋ファンや将棋普及のキーマンとの交流を続けてきたが、ヨーロッパの将棋界で旧ソ連圏の存在感が増してきたことが反映された開催国の決定といえるだろう。
14日の夜は、8分切れ負けのブリッツ大会。会場は、チェコの国技で大きな町に必ずひとつはあるアイスホーケーのアリーナを使っていて広い。尤も、将棋単独のトーナメントではなく、チェコオープンという様々なボードゲームの大会の一種目という位置づけなので広すぎるということはない。
参加したのは、ウクライナ、フランス、オーストリア、ドイツ、ロシア、ノルウェー、イギリス、オランダ、スウェーデン、日本の10カ国44人。国際交流基金の援助でやってきた宮田七段、大野六段もこの早指し戦に参加し、プロ棋士と平手で対戦できる幸運な方も。1位2位は、大野六段、宮田七段と、当然のごとくプロ棋士が占めた。
3位4位も、私と瀬良さんの日本勢が入り、ヨーロッパのベスト3はウクライナのコロミエッツさん、フランスのシェイモルさん、ポワチエさんだった。
15日の朝から、17日の昼間で、持ち時間40分、秒読み30秒で、ヨーロッパのレーティング上位32人による勝ち抜き戦方式のヨーロッパ選手権と、誰でも参加できるワールドオープン選手権が開催された。ヨーロッパ選手権参加者は自動的にワールドオープン選手権にも参加している方式の大会だ。今年のヨーロッパ選手権者は、来年のアマ竜王戦に招待されることになっているので上位32人は皆とても気合がはいった表情だった。
参加者の内訳は、ウクライナ(17名)フランス(10名)ドイツ(7人)オランダ(6人)スウェーデン(5人)日本(5人)オーストリア(4人)ロシア(3人)イギリス(3人)ノルウェー(3人)チェコ(1人)で合計11カ国64名が参加した。ホスト国チェコの参加者が少ないのが気になったが、チェコで将棋を指す人はまだ初心者なので、夏休みのこの時期はヨーロッパでのハイレベルな大会に参加するよりも、自分のバカンスを優先するためのようだ。
音無しの時計で問題
1回戦が終わると、トラブルの相談を受けた。対局時計が設定のミスのためか、ビープ音が鳴らず、時間切れになってしまったケースはどう扱うべきか、というものであった。どうやら時間が切れたほうが優勢を築いていたので、クレームになったようだ「たとえビープ音が鳴らなかったとしても、時計の表示は見えているのだから時間が切れたほうが即負けになるのがルールである」と答え、実際にもそのように扱われた。
当日、対局時計は日本でおなじみのシチズン製と、別の国製の2種類が使われており、ビープ音が鳴らなかったのは、後者で、これまでの大会でシチズン製に慣れていてビープ音が鳴るものと時間切れの選手が決め付けていたのが原因ではあるが、実は、私自身も9回戦でその対局時計で時間切れ負けを喫してしまった。対局時計を一種類に統一できない大会は、運営者、参加者とも今後注意が必要であろう。
1日目でヨーロッパ選手権の方は準決勝まで進んだ。そこまで勝ち進んだのは、シェイモルさん(フランス)ウーステンさん(オランダ)ミルニックさん(ドイツ)、コロミエッツさん(ウクライナ)の四人で決勝に進んだのはウーステンさんと、コロミエッツさんとなった。
決勝で早すぎた投了
2日目、ヨーロッパ選手権決勝は、角換わりからコロミエッツさんの細い攻めがつながるかどうかという将棋だったが、終盤にうまい飛車切りがあり、数手でウーステンさんが投了した。が、実は、投了図以下▲2二玉、▽4四馬と質駒の銀を取ったとき、馬を取る一手ではなく、▽3二玉とかわす手があった。▲4三銀-▲5五馬としても詰めろではなく、▽8九飛車成が早い。▲4三銀-▲5三馬も▽8二飛で一筋縄ではない。そう指せば勝負はまだわからなかったかもしれない。コロミエッツさんがヨーロッパ選手権者となった。ウクライナからの優勝者が出るのは史上初めてのことである。
2日目の7回戦終了後の夜、ヨーロッパ将棋連盟(FESA)の各国の代表者が会議を行っている時間を利用して、宮田七段と大野六段が多面指しの指導対局を希望者に対して行った。全員2枚落ちで対局となったが、勝てたのは一人か二人で、非常に厳しい指導となった。FESA 会議終了後も、場所をアリーナ内のレストランに移して、指導多面指しは日付がかわるまで続いた。熱心な方が多いのには改めて感心した。
最終日、アマチュア竜王戦出場権のかかったヨーロッパ選手権が前日に終わっているので、ワールドオープン選手権戦のほうはなんとなく和やかなムードで淡々と進む。
優勝は、瀬良さん、2位は菊田さん、3位は田代さん、4位が寺尾さんと上位は日本勢が独占、5位にシュニッダーさん(オーストリア)、6位にコロミエッツさんが入った。
来年の開催国はフランス。ウクライナのリフネも再来年以降のホスト地として手を挙げているが首都のキエフと違ってアクセスしにくいのが難点となっている。
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