ドイツのフライブルグで将棋夏合宿(33号,9月17日発行)
アマ講師5人で25人に指導
7月7日(木)の朝から10日の昼までドイツのスイス、フランス国境近くのフライブルグで級位者を対象にした恐らくヨーロッパ初の将棋合宿が行われた。(寺尾学)
今年の2月であったろうか。ドイツのハンブルグに駐在している田代さんから「パリの植村さんが将棋の合宿のようなものを行うことを考えている」というメールが将棋を世界に広める会あてにはいったのが事の始まりだった。
面白い試みだと思い、さらに詳しく聞いていくと、囲碁では、すでに技量向上のための合宿のようなイベントがヨーロッパでは行われていて、植村さんは参加したことがあるとのこと。同じことを将棋でもできないかと考えて、アルザス将棋協会のカマチョさん、オズモンドさんらに話したところ、面白そうなのでぜひやりましょうということで、連絡が来たのであった。
昨年に会った、アマ強豪の瀬良さん、菊田さんもやってくるという。これは行かねば「将棋を世界に広める会」の看板が泣くことになる、と思ったわけでもないが、合宿の翌週にチェコでヨーロッパ選手権が開かれるという情報も入っていたので、2回の週末をヨーロッパで将棋漬けで過ごす覚悟を決めた。
アルザス将棋協会のオズモンドさんと準備のメールを事前にやりとりした。解説用の大盤はあるとのことだったが、「次の一手などを講義形式でやる場合、大盤だと新しい問題を並べるのに時間がかかる。パソコンに問題図を用意しておけば時間の節約になって参加者を飽きさせることがない」「わかった。プロジェクターはこちらで手配する」ということで、1996年に故原田九段の許諾を得て英訳した、「将棋を始める人のために」の問題30題の図面をパソコンに保存し、7月6日、成田を発った。
フライブルグは、スイスのバーゼル空港からリムジンバスで約一時間の距離。中央駅でオズモンドさんの車でピックアップされると、街中から離れて山道へ向かい30分。人里離れたところに合宿の会場はあった。フライブルグ大学のセミナーハウスということだったが、山小屋といったほうがぴったりくるような場所であった。
豪華な解説陣
1日目。30人が入れるセミナールームを使って午前中は早速多面指し。日本人5人がドイツ、フランス、オランダの25人を相手に大車輪の活躍。午後は参加者を High Kyu Player と、Low KyuPlayer とに分け、ミニトーナメントを行った。夕食後、何をするか決めていなかったが、誰かからか「模範試合を見たい」との声が出て、田代さんと私が対戦するのを大盤で瀬良さん、菊田さんが解説(もちろん英語で)してくれることとなった。初手から一手30秒という早指しだったが、田代さんの四間飛車で、居玉のまま端歩を突き越す趣向に対して、5七銀右から飛車先を突き越さずに3五歩を突き捨てる急戦に出て、力将棋に。運良く優勢となってから震えまくり、すわ逆転かというところから、再び開き直って盛り返すという将棋で、瀬良さん、菊田さんの解説を仰ぐには恥ずかしい将棋であったが、見ているほうはどちらが勝つか最後までわからず、好評だった。
2日目の午前は、私が主役。用意してきたパソコンの図面をプロジェクターでスクリーンにす。"What do you think is the best next move?"と聞くと、何人かから手が上がる。答えがあっていても、違っていても画面上で変化を示しながら、不慣れな英語で説明を続ける。次の問題に移ろうとしたときに、「ちょっと待って、もう一度今の変化をもう少し詳しく」などの注文が飛んでくる。こうした質問が来るのは講義が真剣に聞かれている証拠なので手ごたえを感じた。
問題は、「王手は追う手」「両取り逃げるべからず」など、格言を地でいく手筋を教えるものが多い。ノートをとる人もいるなど、皆熱心だ。特に、ダンスの歩の問題で、歩を同じところに打ったり成り捨てたりするうちに、いつのまにか相手の金か銀が取れてしまうのにはびっくりしていた。外国人の初心者にとっては、持ち駒を使う、ということが不慣れな場合が多いので、次の一手問題も、持ち駒を有効に利用する問題が効果的なようだ。
午後は、二人組みのペアを作って、ペア将棋。ヨーロッパの将棋イベントは個人参加のトーナメントが多く、ペア将棋などの遊びの要素が多いイベントは初めての方がほとんどだったが、終わった結果は皆大いに楽しんでくれた。感想戦では上位者が読み筋を披露し、下位者が「そんな手があったのか」と絶句するシーンがが続出し、勉強になった人が多かったと思う。
2日目の夕食後は、アトラクションの時間。昨年度ヨーロッパチャンピオンの瀬良さんに、フリーのコンピュータソフト、ボナンザと対戦してもらい、プロジェクターに映して菊田さんの解説つきで皆で観戦した。瀬良さんはボナンザの持ち時間を伸ばすと強くなるのを知らなかったのか、ボナンザに入れられてしまった。
人間対コンピュータの後は、アニメの時間。らんま1/2 の DVD をオーストリアから参加したダニエル・テーベンスさんが持ってきて、Shogi Showdown の回を上映し、女性の参加者に好評だった。
合宿最終日を前にして私は焦っていた。用意してきた故原田九段の問題は使い果たしてしまった。そういえば、穴熊の攻め方がよくわからないと、話してくれた人がいたのを思い出した。よし、穴熊崩しの問題集で乗り切ろう、ということで、夜中自室で穴熊崩しの問題図を九題パソコンで編集した。
おかげで、最後の日の午前も、プロジェクターに映した穴熊崩しの問題を使って、興味を切らさずに持たすことができた。
今回感じたことは、並べ方とルールを覚え、ある程度指せるようになった人が初段ぐらいに上達するための技術情報が海外では圧倒的に不足していること。その情報がないと、せっかく覚えても上達することができないので、面白さを感じられずに将棋から離れてしまう人がかなりいるのではないかという感じがした。今後、当会としてはその情報ギャップをどのように解消していくかを追求すべきだと思う。
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