こも・えすたスペイン将棋便り(41号、2007年9月22日発行)
マンガ・アニメファンに将棋の指導
スペインに着任してから早1年3ヶ月くらいがたちました。スペインは、フランス、ドイツ、英国などと異なり、将棋がまだ全くと言っていいほど普及していません。ゼロからの普及になかなか苦心しているところです(山田彰)
これまで、日本人会主催の餅つき大会やマンガ・アニメ関係のフェスティバルで将棋の指導を行ってきました。スペインでは、若い人を中心に日本のマンガやアニメに近年急速に人気が集まっており、各種の催しが各地で開かれています。そうした会合に集まる人々はマンガ・アニメといったポップ・カルチャーだけではなく、日本の文化全体に強い関心と親日感情を持っています。
最近では7月29日、マドリードの衛星都市であるアルコルコン市で開催される「Jornadas Ludicas de Alcorcon 2007(アルコルコン遊びの祭典、とでも訳しましょうか)」というイベントに出席してきました。ADAM(マドリード・アニメ・マンガ擁護協会)が主催するマンガ、アニメなど日本のポップ・カルチャーに関する3日間のフェスティバルです。フェスティバルの一環としてこの機会にアルコルコン市の青少年センターの一室で、将棋の講習会を行いました。こういうフェスティバルに来る人たちは思ったよりずっと熱心で、ほとんどの人が完全な初心者のはずなのに、熱心に私の説明に耳を傾け、指導対局を受けたり、彼ら自身で対局をしたりしていました。女性も何人か参加しました。将棋は、他のゲームと同じように日本のクールなゲームの一つと思ったのかもしれません。結局、3時間の間、入れ替わり立ち替わり30人以上の人が将棋を指しました。
法被姿で入門指導を行いました
その後、大ホールに移って、コスプレ大会やカラオケ大会などの授賞式、閉会式が行なわれました。スペインでは、私は個人的に日本のポップ・カルチャー普及支援に力を入れていて、こういう会合によく顔を出して挨拶をしたり、賞状を授与したりしています。マンガ・アニメの愛好家に関しては、すでに各地にいろいろな組織が存在し、しっかり根付いています。将棋の普及もこうした既存の組織の力を借りることが必要なのかもしれません。
また、こうした会合で将棋に関心を示した人にメールで連絡して、大使館でも将棋講座を2回開きました(9月には3回目を開催します)。 ルールの指導には、スペイン語の将棋関係サイトから引用したスペイン語の資料を利用していますが、ルールを超えて、将棋の戦術、手筋、といったものに進んでいくにつれてどういうものを教材に使うかが問題になります。7月末の2回目のスペイン人に対する将棋の講習会を開いたときには、夏休みの最中で出席者は少なかったのですが、ルールはみんな知っているということで、前回より進歩して、将棋の戦い方、囲い、詰みの形、形勢判断の方法などを一通り説明し、彼ら同士で平手の実戦の対局を指しました。 覚えたばかりの矢倉や穴熊を早速指しています。なかなか筋の良い者もいて、もう少し時間を掛けると、かなり強くなるのではないかなと思いました。やはり、ルールだけではなく手筋などについてスペイン語の説明による教材があれば、かなり上達の役に立つでしょう。インターネット上では将棋に関する英語のサイトについてはかなり充実してきたような気もしますが、スペインの場合英語教材ではなかなかむずかしいという感じがします。遅まきながらスペイン語教材の作成を行なわなければいけないかなと考えています。
大使館の一室で、皆さん真剣に聞いてくれます
将棋の駒の字も課題の一つです。慣れてくれば問題ないのかもしれませんが、将棋の駒の漢字を正確に理解することは非日本人にとってはなかなかの難事です。特に成駒は何を書いているかよくわかりません。 将棋の本に出ている図面の駒の字と実際の駒の字がかなり違うことも混乱の種です。NHK杯戦で使用されているような一字駒の普及版があればかなり役に立つかもしれません。本当は、それにさらに駒の動き方が載っていれば初心者向けとしては言うことがないのですが。
さらに自分で勉強したいというスペイン人には、英語やスペイン語のウェブサイト、盤駒を入手したいという人には、オンライン・ショップのウェブサイト(注)を紹介するようにしています。こういうことが簡単にできるようになったのは大きな進歩、変化です。自分自身もまだうまくできていませんが、将棋の普及(国内的にも国際的にも)にインターネットの進歩をもっともっと上手に活用する必要があります。
今年の秋には、本間博六段が将棋の普及のためフランスを中心として欧州に約9ヶ月間派遣されることが決まりました。スペインにも来ていただけるようなので、プロ棋士の来訪を機に何とか盛り上げたいと思っています。
スペイン人だけで、将棋を楽しむことができるようになるように、将棋を愛好するスペイン人の組織を作ることが最大の課題と考えています。残された時間がどのくらいあるのかわかりませんが、将棋の確かな足跡をスペインにつけたいものです。
(注)http://www.thetradingcentre.co.uk/products.asp?category=Shogi
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