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こも・えすたスペイン将棋便り 「スペインでの普及を見つめて」(45号、2008年11月22日発行)

 今年(2008年)の8月末に2年4ヶ月足らずのスペイン勤務を終えて、日本に帰国しました。前回の記事で書いたとおり、前任地のイラクでは厳しい治安状況のために将棋、日本文化の普及、広報活動というようなことは全くできませんでした。 スペインには、フランス、ドイツ、英国といった他の欧州諸国と違って、将棋を指す人はほとんどいません。現地の将棋の組織はなく、将棋連盟の支部もありません。どこから手をつけていくのか、わからないという状況から始まりました。普及の目標としては、スペイン人自身による将棋愛好家の組織を作ってもらうというものでした。(前スペイン日本大使館公使 山田 彰

 まず、スペイン人が運営しているマドリードの囲碁クラブ「Namban」で、将棋ファンを育てようと考えました。スペインでは三上さんという日本人が30年以上にわたりボランティアで囲碁を教えてきていて、その弟子、孫弟子たちによるスペイン全体を組織する団体もずいぶん前からできていますし、そこから、今年の北京のマインドゲーム・オリンピックに囲碁の代表選手を出しています。「Namban」で囲碁を打ちつつ、スペイン人に将棋を教えました。ゲームをやっているスペイン人は飲み込みが早く、特にチェスを知っている人は将棋の魅力をすぐ理解しました。「Namban」に将棋の盤駒をたくさん寄付していったので、これからもマドリードにおける将棋の拠点となってくれるでしょう。

 日本ではあまり知られていませんが、他の欧州諸国同様、日本のマンガやアニメは大変な人気を博しており、その人気も年々高まっています。若い人たちの日本への関心の第一歩は、マンガやアニメから始まります。日本語を始める学生の7〜8割はマンガ、アニメが勉学のきっかけです。

 スペインでは、全国各地でマンガ・アニメのイベントが数多く開催されていますが、こうしたイベントに参加して、カラオケ大会やコスプレ大会の審査員をしたり、講演をしたりする傍ら、将棋講座を開きました。

 日本のマンガ・アニメに関心を持つ若者は日本のゲームにも関心を持っています。将棋は、彼らにとってまだなじみのないゲームですが、スペイン人自身がイベントの中で将棋コーナーを設けたいと考えるようになってきました。

 今年9月にスペインの日本学研究所という団体から「日本のテーブル・ゲームに関するイベントを行いたい。このイベントでは、囲碁、将棋、麻雀(注:どういう訳か、麻雀は将棋より先にスペインの日本文化愛好者の注目を集めているのです)を取り上げる予定なので、是非将棋を指す貴官に出席願いたい。このイベントが成功すれば、定期的に開催したい」という依頼のメールが私に届きました。残念なことに私の帰国後の開催予定になっていたので、私自身の出席はかなわないのですが、独自の動きの芽生えが感じられます。

 最近、「ハチワンダイバー」とか「3月のライオン」といった将棋を題材にした人気マンガが続々出てきましたが、日本のマンガやアニメから将棋に興味を持つというスペイン人はこれから増えそうです。7月に日本からアニメのプロデューサー・研究者である櫻井孝昌さんがスペインを訪問した際に、現地の団体ADAM(アニメ・マンガ保護協会・・・要は、日本のアニメ、マンガの愛好者の集まりです)の会合に案内しました。櫻井さんは、日本のアニメについて講演を行い、私は将棋講座を開いたのですが、櫻井さんは「将棋なんて何十年ぶりだろう」といいながら、嬉々としてスペイン人と将棋を指していました。将棋を世界に普及していくためには、世界とつながっている日本人に将棋を普及させることも大事なのかな、と思いました。

 大使館ではスペイン人を集めて将棋教室を開催しました。今年の5月に、文化交流使・プロ棋士の本間六段をマドリードに迎えて将棋講習会を開催したのは、前号のかけはしで報告したとおりです。在留邦人が組織するマドリードの日本人会の餅つき大会でも将棋講座を開催しました。こうした講習会で、すぐに将棋を覚えるというわけにはいかないでしょうから、参考になるスペイン語や英語の将棋のウェブサイトを紹介した紙を配りました。ウェブ新時代に対応した海外普及をもっともっと考える必要があったと思うのですが、スペイン語による情報発信という面では不十分でした。

 さて、スペインでは夏はバカンス・シーズンで物事は動きません。今年(2008年)秋からさらに普及に力を入れ、工夫をして、組織作りという課題に取り組みたいと思っていたのですが、思いがけず帰国発令ということになり、赴任前に考えていた目標を達成するには至りませんでした。その意味では、ちょっと悔いも残っていますが、何とか普及の芽は出てきたのではないかという気もしています。
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