国際将棋フェスティバルの報告(46号、2009年2月28日発行)
2008年の11月に国際将棋フェスティバルが山形県の天童で行われた。このイベントは、1999年から3年ごとに日本将棋連盟の主催で行われていた国際将棋フォーラムを発展させ、NHK「将棋の日」のイベントと合体させたものである。(寺尾学)
イベントの内容自体については既に「将棋世界」誌、「週刊将棋」誌でかなり取り上げられ、NHKの「将棋の日」でも一部が放映されたので、詳しくは触れな いが、簡単に記すと、日本を含む21カ国から40名の選手が将棋ファンにとって千駄ヶ谷と並ぶ聖地である駒作りの里天童に招待され、竜王戦の第七局と同じ 会場の旅館滝の湯でABの2つのクラスに分かれてトーナメント戦が行われ、さらに、NHK「将棋の日」番組の一部として、海外アマチュアとトップ女流棋士 によるペア将棋の録画も行われ、招待された全員が同番組の「次の一手名人戦」に参加する、という趣向の凝らされたイベントであった。
海外でも将棋が指されていることが国内的に強烈にアピールされた
今回の最大の意義は、私のみるところでは、、海外でも将棋を指す人が結構いて、その国のトップはかなり強い、というメッセージがイベントの会場とメディ アを通じて日本国内の将棋ファンに対して発せられたことだ。トーナメントには女流アマ名人の笠井さんが参加していて優勝候補と目されていたが、初日の予選 で米国の Bakerさんに討ち取られた。
また、NHKの「将棋の日」の番組で、日仏ペア対日独ペアのペア将棋の公開収録が行われ、フランスの Pottier さんと清水女流王将ペアの息の合った指し回しが後日にオンエアされたのが白眉であった。図は清水女流王将が2二金と打ち込んだところ。対して後手は4一玉 と逃げる一手。先手の駒台には金気があれば3ニに打ち込んで詰みとなるがあいにく何も無い。しかし、6四に銀が落ちている。質駒を取れば先手の勝ちの局面 だ。
異国の800人ほどの観衆とテレビカメラの前での女流棋士とのペア将棋という、誰しも舞い上がってしまうような初めて尽くしの環境で、一手30秒の秒読み
の中、女流王将の意図を読み取り、Pottier
さんが6四飛車と飛車捨ての決め手を放ったのは見事のひとことに尽きる。なかなか海外の選手もやるものだな、と感じた視聴者が全国各地で多かったのではな
いだろうか。
次の課題は海外広報の整備と天童が海外から訪れやすい観光地となること
一方残念なこともある。このイベントは、国内では大きく報じられ、中国語のメディアにも取り上げられたが、英語では取り上げられなかったことだ。昨年の 暮れ、加藤一二三九段の猫への餌やりでの近隣住民とのトラブルがマスコミで報じられたが、これは、Japan Times 紙にも英語で取り上げられた。なぜそうなったかというと、共同通信が英語でこのニュースを契約各社に配信したからである。共同通信が英語で将棋関連の記事 をもっと取り上げるようになると、Japan Times を初め、英語のメディアに Shogi の文字がもっと現れることになる。この点、日本将棋連盟に提言をしてもっと将棋の記事が英語で取り上げられるようになるようしていきたい。
また、もうひとつ気になったことは、天童はまだまだ外国の人が訪れやすい観光地ではないということ。新幹線が通って、東京からのアクセスはよくなってい るが、外国語による観光案内情報がまだまだ少なく、日本語ができる人でないと周辺をめぐるのもなかなか、難しい。実際、イタリアから参加した Caridi さんに、トーナメントの合間に、駒つくりの佐藤敬商店に連れて行ってくれと頼まれ、滝の湯で日本語の周辺マップを手に入れ、場所を聞いて店まで連れていく ことになった。Caridi さんは、本国の友達の分も含めて盤駒を数組、20万円近く買い物をしたのだが、クレジットカードでの支払いを受け付けられないということで困ってしまっ た。結局、店主に数キロはなれた宅配便のセンターまで車を出してもらい、そこで宅配をしたことにして、クレジットカードで代引きの処理をし、なんとか購入 することができたが、このようなことでは、今後、海外の将棋ファンが天童を訪れたときに不便を感じるのは必至、改善が求められると思う。
8日の夜に、招待選手、ゲストのプロ棋士と、一般の方が交流できる立食パーティがあった。その場で、ヨーロッパ将棋連盟の会長でベラルーシから参加したKaspiarovich さんと、日本将棋連盟の桜井理事との会話の通訳をした。
Kaspiarovich さんからは、棋士の訪問をもっと増やしてほしい、英語の書籍、とくに戦法辞典のような棋書を出してほしい、日本将棋連盟になんでも相談できるホットライン の担当者を置いてほしい、棋譜を送るので技術指導をしてほしい、などの要望が出された。桜井理事は、すぐには対応できないが、かなり力強い調子で前向きに 対応すると答えていた。実際、翻訳するべき棋書も具体的に選ばれていて、著作隣接権まわりの事項を既にクリアをしているとも。酒席での話で多少のリップ サービスもあったとは思うが、ひとつひとつを実現させていくのが大事だと思う。当会としても、この動きを見守るとともに、できることがあれば協力をしてい きたい。
このほか、天童では招待された選手以外に、2004年に筆者がヨーロッパ将棋選手権が開催されたミュンヘンを訪れたときに将棋のドキュメンタリー映画を 作っていた Alex 君が自費で来日し、通訳を雇って精力的にカメラを回していた。滝の湯では、「竜王の間」も撮影したが、その場所で昨年永世竜王が決まることになるとは思わなかったろう。2004年当時も資金集めに苦労していたが、その後も上海の許先生や、昨年の竜王戦第1局が行われたパリを訪れるなど数年にわたって粘り強 く取材と撮影を続けてフィルムを取りためていたらしく、今年の5月に作品として完成するようだ。楽しみにしたい。ウェブサイトでその情報が見られるので、 英語が出来る方はぜひ見て欲しい。URL は、
ページを開いたら右側の画像メニューの上の方にある 「ShogiDocumentaryTrailer」をクリックすると予告篇を見ることができる。
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