ワシントンDC将棋クラブ(2号、1996.7.7)
燃える東海岸
ニューヨーク(以下NY)、ワシントンDC(以下DC)、フロリダと言うとアメリカ東海岸の有名都市ですが、これらは将棋が強いプレイヤーが揃っている都市でもあります。(編集長 山田禎一)
NYは日本人が主ですが、フロリダはラリー・カウフマンさん、DCはジョージ・フェルナンデスさんという現地の方が中心です。
今年、第1回全米将棋選手権の決勝はNYの渡辺さんとDCの三五さんとの間で争われ、またアメリカ人の最高成績はカウフマンさん、2位はフェルナンデスさんでした。今年に関して言えば、西海岸側は少し分が悪かったようです。フェルナンデスさんはかけはし創刊号の中で山田彰さんに紹介して頂いたので、覚えている方も多いはず。私もアトランタまで行くついでに、ちょっと足を伸ばしてDCを訪ねることにしました。
NY将棋クラブとDC将棋クラブは定期的に対抗戦を開いており、いいライバル関係にあります。さらにカウフマンさんはかってDCに住んでいたこともある、という具合に、東海岸は一体となって将棋を楽しんでいるのです。
駒落ち大会
DC将棋クラブには15級から五段まで、30名以上のメンバーがいます。一番下が15級というのは段位認定が結構きついと思いますが、どんなレベルの人も楽しめるよう、いろいろな形のトーナメントを実施しています。私が行った時も、予定を合わせて駒落ちトーナメントを開いてくれました。ここの駒落ち手合いは上手にとってかなり厳しくなるように決めています。例えば、初段の私と四段の三五さんとの試合では何と2枚落ちです。これはフェルナンデスさんの哲学によるもので、「上手の勝率が5割になるのが正しい手合い。」ごもっともです。確かに、力の差がはっきりしている場合、少し駒を落としたくらいでは差が埋まらないことが多いものです。最後は力が強い方が勝つのでしょうが、そこを勝率5割に持ち込むために上手にたっぷり駒を落とさせる、これがDC流駒落ちの心得です。
その代わり、トーナメントでなくても勝負は真剣です。駒落ちだから指導対局なんてことは全くありません。ましてやトーナメント、私も2枚も落としてもらいながら、きっちり負かされてしまいました。
もう一つの楽しみ
いくら駒落ちでも下級者が上級者に真剣に指されて勝ちきるのは容易ではありません。優勝を争ったのはやはり三五さんとフェルナンデスさんの二人の四段でした。
でも下級者にも楽しみが残っています。総合優勝以外にもクラス優勝というのを用意してあるところがDC将棋クラブのいいところ。私もベスト初段というトロフィーを頂いてしまいました。
桜祭りに出店
自分たちで将棋を楽しむばかりでなく、新しく将棋ファンを増やす努力も欠かせません。ポトマックリバーの河畔に植えられた桜の木、これは日本からの贈り物です。これにちなんだ桜祭りがDCで毎年4月に催されています。桜祭りには観光客も大勢来ます。人で賑わう中にDC将棋クラブもコーナーを設けて、展示と勧誘をしています。今年はクラブのメンバーが30秒将棋の実演をやって、観客の目を引き付け、クラブの行事予定表とパンフレットを数十部配布、そのうちの何人かはクラブに名前を登録して帰ったそうです。クラブメンバーは年間25ドルの会費をはらってますが、たまにしか参加できない人は年会費を払わずに1日3ドルで遊ぶこともできます。また初めて参加した人からは何ももらいません。3回目からは1日3ドルですが、1回目と2回目はただで将棋を楽しむことができます。このようにして将棋に知り合うきっかけを増やそうとしているのもDC将棋クラブの特徴です。
こんな風にアメリカにしっかり将棋が根付いた姿を見て、気持ちを新たにして帰って来たのでした。
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