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Translating Shogi-2(2号、1996.7.7)

意見はさまざま
 私が日本に来てから今日までの半年ちょっとの間に、英語で棋譜をどのように表すべきか、何人もの人と多くの議論を(時には過熱気味に)繰り返してきました。外国の将棋ファンに棋譜や将棋の本を簡単に読んでもらえるようにするためには漢字を使わない表記法が必要だという点は一致してますが、具体的にどのように書くべきかということになると人によって意見がさまざまです。ここではこのような論争には踏み込みません。私の立場は一貫して「現実第一主義」です。重要なことは、棋譜がどうあるべきか、ではなくてどうすれば多くの人に理解してもらえるか、です。(ライエル グリンベルゲン Reijer Grimbergen)

青野九段の著書Better moves for better Shogi とフェアベアン氏の著書 Shogi for Beginners の出版以来、国際的に通用する表記体系がすでに普及しています。現在、日本語以外の言語で書かれる出版物は殆どがこの国際表記に準じています。もともと、漢字表記を翻訳したというよりチェスの表記法を拝借した、といったほうが早いような表記体系なので、漢字表記との間には幾つかの大きな違いがあります。連載2回目は、この国際表記体系について説明していきたいと思います。

駒の呼び方
前回紹介しましたように、海外では升目の呼び方も日本とは違います。一・・九の代わりにa・・i が使われます。例えば7七は7g 、4二は4b で
す。駒の名前も次のようになります。
玉  king
飛  rook
竜  promoted rook/dragon
角  bishop
馬  promoted bishop/horse
金  gold
銀  silver
桂  knight
香  lance
歩  pawn
と   promoted pawn/tokin

 漢字なら1文字でも英語では最大6文字も必要で、駒の名前をフルネームで書くのは手間がかかることです。幸いほとんどの駒は違うアルファベットで始まっていますので、頭文字だけで区別できます。(駒をローマ字で書くとそうはいかないことに注意して下さい。Kで始まる駒が4種類もあるのです。)
KING と KNIGHT だけは頭文字が同じですが、これはチェスでも同じことなので、解決は簡単です。KNIGHTの発音はナイトで、NIGHT[夜] と同じ発音です。そこでチェスではKの代わりにNを使っていますので、将棋でも同じようにすればいいのです。
 駒と升目の表記を決めただけではまだ棋譜は書けません。駒が特別な動きをするケースがいくつかあり、それをどう記述するか決める必要があります。最初のケースは成り駒です。国際表記では「成」に対応する記号は “+” です。例えば成桂は+N と書きます。ただ、竜・馬・とに関しては、D ・ H ・T と書いてもいいのですが、普通はそうしないで+R ・ +B ・+P と書いています。また、駒が成る時は手の後ろに “+ ” を付けます。一例を挙げると、2三歩成はP−2c+ となります。この例から、漢字記法と国際記法の違いをもう2つ知ることができます。1つは駒を升目より先に書くことです。これはチェスの記法と同じで、明らかにそれを流用しています。2つ目の違いは、駒と升目の間に“− (ハイフン)” を入れることです。棋譜を読み易くするための工夫だろうと思いますが、チェスの場合も普通の(短縮形の)記法ではハイフンは使いませんので、将棋の場合にこれが使われる本当の理由はよく判りません。実際、ヨーロッパの出版物では省略されることの方が多くなっています。

打ったり寄ったり
 次に考えなければいけないのは駒を打つケースです。
Better moves for better Shogiと Shogi for beginners では打に対応して*を使っていますが、’が使われることもよくあります。N*4e もN'4e も4五桂打のことです。これについてはもう1つ重要なことがあります。漢字記法では紛らわしい時にだけ打をつけ、駒を打ったことが明確な場合には省略していますが、国際記法では駒を打つ場合には必ず*(または ’)をつけます。省略されることはありません。  
 3番目のケースは駒を取る時です。漢字記法では、すぐに取り返した時だけ普通の手と違う書き方(例えば同歩)をしますが、そうでない時は特に明記しません。国際記法では、駒を取る場合は必ず小文字のxをつけます。x がつく時はハイフンはつけません。
 最後に、漢字記法にせよ国際記法にせよ駒の動かし方が何通りかある場合でもちゃんと区別できないといけません。言いかえれば、1つの升に行ける駒が複数ある場合にどう書き分けるか、ということです。漢字記法では幾つかの特別な表現(右、左、寄、行、引)を使っています。国際記法ではその代わりに、駒がもといた場所をハイフンの前に書くようにしています。図1で言うと5八金右は4九(4 i )の金 (G) が5八(5h )に移動したので、G4 i - 5 h と表されます。5八金左なら同様にG 6 i - 5 hです。

棋譜の実例
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 それでは今回のまとめです。棋譜の実例として、相振り飛車の出だしの部分を2つの記法で書いてみましょう。将棋では▲・△で先手・後手を示しますが、チェスでは両方の手を一組にして一手と数えますので、そのような記号は使いません。次号では将棋用語を紹介します。将棋用語にもいろいろありますが、適切な翻訳がなくて海外でも日本語のまま使われているものもあれば、うまく英語で表現されているものもあります。次回は将棋用語がどのように英語になっていったかを幾つかの例を挙げて説明しましょう。
(翻訳 山田 禎一)
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