デンマークの将棋の春(増刊号,1999.8.1)
ヨーロッパではそれ程多くの人が将棋を指している訳ではありません。最近までは西欧では将棋の選手組織がある国は数カ国でした。中でも英国、オランダ、ドイツ、フランス、ベルギーは組織ができてから10年以上経ち、三・四段クラスが何人も生まれています。(スウェーデン将棋連盟会長 Dr. Martin Danerud)
他にはノルウェーとフィンランドにも選手組織があります。ヨーロッパ将棋選手権大会も1985年から毎年行われています。
スウェーデンでは2年前にスウェーデン将棋連盟が設立されました。集中的な活動の結果現在会員は100名を越え、最近第1回スウェーデン将棋選手権大会がイェテボリで行われるに至りました。私どもは日本将棋連盟とISPSから大きな支援を受けています。
今年4月の初めのイースター休暇に Carl Johan Nilson 氏と2人で、フェリーと車でイェテボリからデンマークのオールフスに行きました。デンマークはスウェーデンと海を挟んで向かい合っています。毎年恒例のデンマークチェス選手権がこのイースター休暇にオールフスで開かれ、400名のチェス選手が参加しました。この機会を利用してチェスファンに将棋を宣伝しようというのが私たちの狙いでした。
イェテボリは海峡西岸にあるスウェーデン第2の都市で、オールフスは東岸のユトランド半島にあるデンマーク第2の都市です。オールフスはとても美しい都市で、何世紀も経った古い家屋が多く残っています。周辺は平坦な農地で、小麦・ライ麦・大麦・燕麦が栽培されています。森が少しだけあり、平坦な大地に点在する風車発電所には近代的な発電設備が林立しています。
スウェーデン将棋連盟には将棋のルールと主要な住所を記載したリーフレットがあります。デンマークに出かける前にそれをデンマーク語に翻訳しました。両国の言葉は似てはいますが、デンマークの人にとってはデンマーク語で書かれている方が理解し易いと考えました。スウェーデンを立つ前に将棋の駒を白く染め抜いた赤いセーターを作りました。デンマークの国旗にも日本の国旗にもこの2色があるからです。
このセーターを着てデンマークチェス大会が行なわれるオールフス上級ビジネススクールに着きました。チェスの大会が開始される前の半時間の間に大会の参加者400名に将棋のリーフレットを配布しました。それからテーブルにつき、将棋に興味を示す人がやってくるのを待ちました。しばらくして最初のチェスの対局が終わると人々が私どものテーブルに来始めました。将棋のルールを説明し、王将だけの”最初の駒落ち”から二枚落ちまでの駒落ちを指しました。
駒落ち将棋の後でデンマークを発ってからも連絡を取れるように名前と住所を聞きました。忙しい一日でしたが数名の気の合うデンマーク人と知り合い、オールフスのホテルで楽しい夜を過ごしました。
次の日も将棋のルールの説明と駒落ち将棋を続けました。しばらく指していると、小さなトーナメントを希望している人達がいることが判りました。8名の参加希望者がいましたので持ち時間15分の3回戦トーナメントを行なうことにしました。
これらの初心者が極めて攻撃的な将棋を指すのに驚きました。数時間前までは将棋を知らなかった人達ですが激しいスリルのあるトーナメントでした。
1−2位の賞品は普通サイズの将棋セット、3−4位はポケット将棋セット、5−8位は厚紙の将棋セットにしました。これらの人々が将棋を続ければヨーロッパの将棋を大いに発展させることになるでしょう。
オールフスのチェスハウスは居心地のよいコーヒーチェス店で、来客はチェス、ビール、ソフトドリンク、コーヒーやスナックが楽しめます。2人のオーナー Klaus Berg と Jense Ove Fries Nielsen は共にチェスのインターナショナルマスターです。オールフスでの2日目の夜はこのチェスハウスでテーブルを借り、数人を相手に将棋のルールを説明し駒落ち将棋をやりました。チェスハウスの雰囲気はとても楽しいもので、駒落ち将棋をとてもうまく指した人もいましたし、将棋セットを数名が購入してくれました。会合は夜中の1時半まで続き、チェスハウスにお礼として普通サイズの将棋セットを贈りました。
オールフスでの3日目はデンマークチェス大会の最終戦を見学しました。同点優勝の Peter Heine Nielsen と Sune Berg Hansen はいずれ1999年デンマークチェス大会の優勝者決定戦を戦うことになります。デンマークの伝説的な64歳のチェスプレイヤー Bent Larsen もこの大会に参加していました。彼はおそらく1960年代の世界最強のチェスプレイヤーだったと思います。
この日の午後スウェーデンへの帰途につきました。スウェーデンに戻りデンマーク訪問の総括を行ないました。デンマークの400名のチェスプレイヤーに将棋を説明することができました。30名に将棋のルールを説明し、駒落ち将棋を指しました。その内18名の名前を聞くことが出来ました。また8名参加の自発的なトーナメントも行ないました。
スウェーデンに戻ってから Joachim Knudsen に連絡を取った所、デンマークでの連絡先になってくれる事となりました。彼にデンマークの将棋プレイヤーの名前と住所、それにスウェーデン将棋連盟の規約を送りました。これらは今後デンマークで将棋の組織を設立する際の基礎になるでしょう。今後すべてのデンマークの将棋プレイヤーにヨーロッパの将棋イベントを知らせる事とします。新しいデンマークの将棋の友人が1999年10月の初めにスウェーデンのマルメで行なう国際将棋大会マルメオープンに来てくれることを期待しています。
ヨーロッパ大陸に築かれた将棋の歴史、インターネットをはじめとする新しい通信技術や、ISPSの大きな援助などのおかげで、ヨーロッパの将棋の将来は明るいと思っています。将来ヨーロッパでは現在既に将棋の組織がある国を中心としてその周辺国に自然に広がって行くでしょう。私どもスウェーデン人から見ると、次はポーランドを開拓すべきだと考えています。ポーランドは大きな国でチェスの伝統があり、スウェーデンや他の周辺諸国と歴史的に関係が深い国です。私どもは将棋が全ヨーロッパに広がるまで努力を続けます!
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