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将棋三昧のフィンランド縦断行(29号,2004.9.18)

 ロシアのサンクト・ペテルブルグに半年間滞在中、一度はウクライナに出掛ける予定でマルチビザを取った。ツーリストビザより値段が高かったのでウクライナだけではモトが取れないと思い、近くの別の国にも行こうという妙な動機でフィンランドを選んだ。(鈴木良尚

 相手先は寺尾理事がコンタクトを維持しているトローネンさん。オウル在住で3年前に「まりこま」さんという名前でハラオカ・カズオさんが「かけはし」に訪問記を書いている。オウル市は25年前ドイツ在住時代にビジネスで何回か来たことがあり懐かしい町だ。ついでに、首都ヘルシンキにも将棋の仲間がいるという話でトローネンさんに紹介して頂き、良い交流の機会が得られた。トロさんに感謝、キートシュ(フィンランド語で Thank you )。

将棋の技術教習計画

 出掛けるに当たりトローネンさんとEメールで打ち合わせ。オウルはまだ初心者ばかりなので是非教育をして欲しいという御要望。そこでロシアの学校で私が使っている大駒と柔らかいプラスチック製の大盤とをかついで行くことにした。
 講義内容は、1.手筋の紹介 2.詰将棋の練習 3.序盤戦法の紹介 4.プロ棋士の実戦譜 5.フィンランド選手の棋譜を見てアドヴァイス 6.何でも質疑応答 という予定にしたが、5.は表記法もままならない初心者が多いということで私との練習対局から何かを言うことに変更した。期間は7月の土日をはさんでオウル中心に5日間(ヘルシンキは1日)。但しウィークデイは仕事のある人は夕方から参加するということで毎日2人から5人の参加者があった。会場はトッペリウスという名前の国際交流会館のような便利な場所があり、ホテルから2〜3分だった。

オウル到着

 7月1日午後5時30分オウル空港着。教えてもらった通り19番の停留所でバスを待つ。他にバスで行く人は誰も居ない。出口に10台以上止まっていたタクシーは次から次へとお客を乗せては消えて行き何だか一人でわびしくなる。昔、仕事で来た時はさっさとタクシーに乗ってしまうので、こんな思いはしたことがない。別にタクシー代を節約する積りもないけれど、せっかくトローネンさんが安いバスの方を教えてくれた好意を無視する訳にはいかない。
 15分待ってバスが来た。気がつくと私の後ろから3〜4人の人がパラパラと乗ってくる。当然空港発着だと思っていたら実はそうではなく、空港は途中の停留所になっていて、バスの到着時刻を知っている地元の人がその時間にやって来たのだった。行き先を運転手に言うと2.9ユーロ(約400円)の由。一人一人が運転手に行く先を言ってお金を払う仕組みではなはだのんびりとしたものだ。乗車時間25分くらいと聞いていたので、途中で心配になり運転手に聞いてみたら”ノット・イエット”という正確な英語の答えだった。日本のバスの運転手だったらこんな受け答えが英語で果たして出来るのかしらと感心した次第。
 ホテルにはトローネンさんが待っていて直ぐトッペリウスへ行く。午後7時から多面指しという予定でそこにはイルマニ・ヨーティライネン君というドクターコース在学中の学生が待っていて早速二人と一度に手合わせ。先ずレベルを確認しないと明日からの講義の内容に関わってくるのだ。イルマニ君はトローネンさんを除いて何かで優勝したしたことがあるようなことを言っていたけど先ずは6枚落で、トロさんとは、よくわからないけどとにかく2枚落でやってみた。やってみると割と簡単に私の勝ち。
 イルマニ君はまさか金銀で負けるとは思っていなかったみたいであ然とした様子。先生は最初にガツンと食らわせて威厳を保つことが重要だ。イルマニ君は翌金曜日の午後からバケーションとかでグッドバイ。将棋に熱中するというよりは色々なゲームを楽しみたいという教養派の様子で、豊かな国の若者にこういうタイプの人が多いようだ。お陰で空いた時間にアイノヴァ公園というきれいな公園の散策が出来、北欧の澄み切った空気に触れ、夏の日の光に輝く緑と、青い大きな湖水にしぶきを投げかける噴水の眺めを楽しむ事が出来た。

講義と演習

 土曜と日曜は大盤を使った。10年来の古い「週刊将棋」の切抜きを使って、10級問題から5級問題程度の手筋の解説、継ぎ歩、垂れ歩、焦点の歩、玉の退路の捨て駒、やさしい必死、端攻め、余す受け、攻めの取っ掛かり、等々。これらは彼らが自分で発想するのは無理なのでもっぱら講義中心。一方、3手詰の詰将棋を40題出して、1時間のうちにどこまで出来るかに挑戦してもらった。結果は答が間違っていたのも含め29題まで進んだ人が最高だった。月曜の夕方には形だけでもということで、私を含めて4人でトーナメントを実施。私とはすべて2枚落だが、優勝賞品のトナカイの干し肉はやっぱり私の所に。これって、トロさんの仕組んだ私へのお土産授与のセレモニーらしかった。

級の認定

 最後の火曜の日は午前中に、坊主頭で兵役待ちのヘンリー君(ウルピライネン)がやってきて、是非将棋を指したいという申し出でがあった。そこで、前日の2枚落から4枚落に落として対局すると、良い筋で攻めてきたので少しヒントを与えてあげると見事な寄せで一本取られた。
Finland_dia1.JPG

 図面を見て頂くと、わかるように既に上手敗勢だが、下手の▲9三歩成に上手同桂とは取らずに▽9六金と下手の飛角を取りに打ったところ。すると飛角を逃げずに▲5ニ銀!が盤上この1手の手筋。9三のと金が生きていてほぼ詰めよ。そこで▽9三桂と、と金を払うと先ず▲6三金と打って玉を8ニに追いやって▲7七飛と逃げながら▲7三飛成を狙う。それを防ぐ▽7四香には▲4三銀成なんて金を取らずに▽6一銀不成と迫ってくる。▽8五桂と逃げ道を開けても▲9四歩でダメだから▽8六金と角を取る。それには▲7ニ銀成▽9ニ玉に▲7三金で絶体絶命。▽9一角と守っても▲7四飛で望みなし。下手の玉が手付かずのまま投了だ。
 そこでヘンリー君、気を良くして自分の級を認定して欲しいとのたまう。では、4枚落で勝ったから7級くらいだろう。でも、もし2枚落で勝ったら5級かな、なんて挑発してしまった(いけませんねェ、こういう先生は。でも1局でも沢山指すことが彼らには経験になって良い事なんです)。すると、たちまち乗ってきてすぐ2枚落ちの始まりです。
 今度はヒントをあげなかったのでヘンリー君苦戦。そうですよね。香の有る無しだけでも大違いですから。私の帰りのバスが来る丁度10分前に討ち取ってしまい、これから沢山勉強して早く5級になって下さい、という言葉を残して先生のお帰りということになったのでした。
 でも、かつて4枚落で日本人の先生に一度勝ったという思いは、この人の将棋人生に大きな意味を持つと信じています。

ヘルシンキ三面指し

 オウルにサヨナラしてヘルシンキに着くと、年配でどっしりと風格のあるリスクラさんが空港まで出迎えに来てくれた。ホテルに着いて50分後リスクラさんのフラットへお招き。2ヶ所あって下の方が小さく上のほうが大きいんだって。下から大勢の巨漢が出て来る。みんな将棋プレーヤーで上のフラットへ移動。カナリヤなど飼っていた。リスクラさんを入れて全部で5人。そのうち3人と多面指し。
 朗らかで若いラウリ(6枚落)、沈思黙考型で中年のユッカ(2枚落)、日本語勉強中のミッコ(2枚落)、このうちユッカ・トゥオヴィネンさんはチェスマスターとのこと。研究者風で全然笑わずに緊張していて、いかにも手ぐすね引いて敵の現われるのを待っていたという様子。これは気をつけないといけない。多面指しだと結構うっかりすることも多いから。
 全員攻めを急がず、すべての駒を使って玉も囲う。これは強い。オウルとは一寸違う。でも、6枚落のラウリが先ず陥落、これで少し気が散らなくて楽になる。次いでミッコも飛角を取り切って楽勝と思いきや結構粘られて時間が掛かった。最後にユッカの方は、と金を2枚作ってヒタヒタと寄せて来るが、敵の注文を外して角金交換に成功すると、アトは堅い木がポッキリ折れるように終わってしまった。
 その後ユッカさんはガッカリしたのか、元気がなかった。でも、注文に乗るとヒドイことになるような手を次々に指してくるのはさすがにチェスマスターだけのことはあった。三面指しのあと、必死の問題を出したら面白がってみんなでやる。これは良かった。右手に包帯を巻いた太っちょのティモが正解を多く出した。オープンサンドとコーヒーが出てフィンランドの夜は更けてゆく。

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